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色々な雑記。

富士子さん(2回目)

何回も書くけど『YAWARA!』だと富士子さんが好きだ。
YAWARA!』は基本的にはスポ根のパロディ漫画。だから富士子さんも努力キャラというより努力キャラのパロディキャラという方が正確だ。バレエから柔道に転向ってギャグだもんね。間に妊娠出産を挟んで4年足らずで初心者からオリンピック代表ってのも完全に「マンガ」だ。実力もやる気もあるキャラを苦戦させるために、ついでに上達の速さが取り柄の後輩キャラのキャラ性を維持するために怪我や病気をさせるのがスポ根漫画では定番の展開だけど、大学生の女子選手の場合は妊娠が使えるってアイディアには、メタな方向で妙に関心したりもする。それでも富士子さんはあの基本的にコメディの世界観なりに一生懸命頑張っていて、気持ちよく応援できるキャラだった。
YAWARA!』がどれだけパロディ漫画かというと、『浦沢直樹 描いて描いて描きまくる』のインタビューによれば、全国高校柔道選手権東京予選で奮戦した花園たちを見て柔が涙を流しながら「一生懸命やるのって、 いいね。」と言った場面を浦沢先生は急に真面目になるギャグのつもりで描いていたというくらいだ。あの場面を多くの読者からマジに受け取られる「ダサい」表現にしてしまったのが本気で嫌だったとのこと。それ以来ギャグの場面はちゃんとギャグとして受け取られるように描いたそうなので、この後の感動的な場面はまともに感動的な場面だと受け取っていいのかな。例えばバルセロナオリンピックの柔の無差別級決勝戦で日本中が盛り上がりまくる場面は意図的に感動しつつクスッとできる場面にしていて、柔と松田の告白シーンはまともに感動できる場面として描いている、ということのはず。個人的には無差別級決勝戦くらいが、茶化しはくどめだけど、ストライクゾーン内の泣き笑い。最近の浦沢漫画は自分のツボからすると茶化しがちょっと強い。
浦沢先生が『YAWARA!』のパロディ先として特に意識していたのは『巨人の星』などの梶原一騎先生が原作のスポ根漫画だそうだ。先生自身も梶原漫画のファン。確かに苦労に苦労を重ねる梶原漫画の主人公と正反対に柔はあまり苦労しない(練習量はすごいけど本人が苦労と認識していない)。ただ、パロディゆえの軽さが気軽に楽しめるポイントでもある。それに勝負が着く前はハラハラさせつつも基本的には主人公サイドが勝つという点では『YAWARA!』も梶原漫画のエンタメポイントをきちんと踏襲している。ヒットした梶原漫画(晩年は滅茶苦茶な漫画も描いていたらしいけど未読)の主人公は苦戦しつつも逆転してスカッと勝つパターンが多いし、柔も恋愛面や精神面で読者を不安にさせつつもほとんどは勝つ。
主人公が勝つというのはエンタメの基本中の基本で、勝ち続けてマンネリ化してしまうのはシチュエーションの作り込みの問題。むしろ勝ちがマンネリ化=当たり前になった状態で読者の刺激のために安易に負けさせると期待がズタボロになってしまったりする。もちろん読者の人気が一時的に下がってでも主人公の負けイベントをストーリーに組み込みたい場合もあるわけで、そういう時は万全の事前準備とアフターフォローが必要になる。
YAWARA!』の富士子が勝ったり負けたりなサイドストーリーに自分はのめり込んだけど、それも揺るぎないエンタメである柔のメインストーリーがあってこそ。