メモ帳用ブログ

色々な雑記。

悪役好き

かなり悪役好きな人間だから倒叙ミステリも好きだ。もちろん古畑任三郎シリーズも好きだ。というか自分が見た倒叙ミステリの半分以上が古畑任三郎シリーズなんだけど。ダークヒーローものも好き、と言いたいところだけど最近はゲスみの強いダークヒーローものも量産されてるからあまり断言しにくいな。好きなジャンルならどんな作品も好きなわけではないってのは基本的に言うまでもないことではあるんだが。そういう意味だと前期のイドはなかなか楽しめた。
娯楽としてのエンタメ作品には私欲の実現という要素が欠かせない。家族と幸せに暮らしたい、恋を実らせたい、大金を手に入れたい、たとえ他人とぶつかることになろうともやりたいことはやりたい。そういう主人公の動機や感情、葛藤がエンタメを豊かにする。実感の伴わない綺麗事を並べるだけのお話ではただの道徳の授業だ。
私欲の実現だけでも成立するエンタメ作品というとゲームや一人称小説のように没入感の強い媒体が真っ先に思いつく。悪人プレイの楽しめるゲームは多い。ただ映画やアニメ、漫画などでは主人公・語り手に没入するというより登場人物の活躍を客観的に眺めて楽しむ要素も強いから、行動にはある種の正義なり正当性なりの裏付けが必要になる。逆に裏付けを完全に無視してもいいという文脈を作った上で私欲に開き直る作品もあるけど、そういうのはエンタメというよりポルノと呼ばれることが多い。基本的にエンタメ作品は私欲と正義のバランスの上に成立している。
そういう意味でいうと私欲に走った悪役たちを眺めるのはエンタメの醍醐味だ。ちょっと後ろめたい楽しみを味わった後で悪役たちが正義の味方にスカッと倒されるとすっきりできて二度美味しい。悪役を見るのは楽しいからこそちゃんとしっぺ返しがないとモヤモヤする派なんだけど、そのモヤモヤが作品の味わいとして活かされてる場合はそういうのも好きだ。ただエンタメ的には減点かな。ついでに個人的には流される惨めな悪役より決断力のある格好良い悪役が好きだ。可哀想な過去はあってもなくてもどちらでもいいけど、それに押しつぶされるようだと残念かも。挫折を推進力にできるならプラス。
倒叙ミステリは悪役のヨロシクない私欲に共感しつつも、警察や探偵に追い詰められてハラハラして、最後はお縄についてガッカリするけど同時にホッとする、という緩急が気持ちいい。犯人は、衝動的なものにしろ、殺人という私欲の成功者でつまりはエンタメだ。その後の成功者の転落を見ることで間違った成功に対する羨ましさを打ち消せる。犯人のトリックが見破られないミステリはそうそうない。着地点が明確なのはエンタメとしての安心感がある。
ジョジョ四部もこれに近い構造のエピソードが多い。ちょっとムカつく行動を取る一般人(つまりごく普通の人)を悪役が過剰にボコるところを見て駄目な方向に共感できる快感を得つつも、正義感の強い康一や康一がやられたのに気付いた仗助が格好良く悪役を倒すことで後腐れなくさっぱりできる。敵がわかった上でどんな能力の持ち主でどうハメて攻略するのかを考える基本構造がハウダニットっぽい。悪役がみんな絶妙に奇妙で身近にいそうな感じにキャラが立っているのがいい。ジョジョシリーズで一番好きなボスキャラはひたすら個人主義的な私欲を満たすことしか考えていない第四部の吉良吉影だし、一番好きな主人公もノンキな不良だけど本気で町を守りたいと思っている第四部の東方仗助だ。
話は戻るけどイドだと主人公の鳴瓢秋人が1番好きだ。鳴瓢が犯人たちを自殺に追い込んだり銃殺したりするたびに、やったあ!やったあ!ってなったから、鳴瓢には引き続きちゃんと罪を償ってもらって自分のすっきり感を確保してもらいたい。せっかくモヤモヤした作品なりに清々しいラストが迎えられたんだし。2番目に好きな富久田の動向もいい感じ。