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絵空事の否定が絵空事

ヱヴァンゲリヲン新劇場版は破まではセカイ系的な要素をまっとうなエンタメに仕上げることを狙っていたように見えるし、それで評判も良かった。一転してのQでの、やっぱりセカイ系なんてガキの絵空事だ!死ね!みたいな暴力性も自分は嫌いではない。でも絵空事を否定して生まれた状況がリアリティ皆無の絵空事になってしまっているのでコンセプトが滅茶苦茶な作品だと感じてしまう。荒廃した世界で主人公が追い詰められている状況が好きな変人くらいしか楽しめないだろうと思う。同じ悲劇的な状況とはいっても、コンセプトの一貫性という意味ではむしろわかりやすかった旧劇場版とは大違いだ。エヴァの旧シリーズは自分が若かった頃に触れていたこともあって結構ハマったアニメだ。ただどハマリしていたとは言えないかな。良くも悪くも旧シリーズには特に不満なくあれでよくできたアニメだと思っている。いわゆるエヴァの怨念みたいなのは特にない。新劇場版の序・破は普通に楽しんだし、Qもまあこんなもんかなって感想。
セカイ系らしく主人公が他のすべてを捨ててでもヒロインを選んだら世界が破滅寸前に陥った、主人公にその罪を自覚させたい、みたいなQのコンセプトはわかる。ニアサードインパクトを引き起こしてしまったシンジを殺すに殺せない事情も、ヴィレのミサトたちがシンジをネルフから隔離しようとする事情も、かといってシンジと打ち解けられない事情もまあわかる。でも人類補完計画を実現させるトリガーになりかねないシンジをハブにしたり嫌味を言うことが予想できる相手と接触させたりして、結果的にネルフの下に走らせる事態になった理由はよくわからない。エヴァのキャラがコミュ障の人格破綻者ばかりなのは元からだけど、絵空事を否定した先にあるのが別の絵空事では興ざめだ。シンジを精神的に追い詰めるというシチュエーションありき過ぎてキャラたちの対応が納得できない。旧劇場版もコミュニケーション不全を扱ってはいるし展開なんかもっと意味不明だけど、すれ違いのエスカレートがついにはサードインパクトを引き起こすという負の積み重ねがあった。Qではいきなり14年後に舞台が移ってドラマが一度ご破産になって、しかもギスギスしていてシンジはその理由にまるで実感がない。感傷の甘さに浸れない方向での理不尽さはある意味リアルかもしれないけど、あんまり楽しいもんじゃない。現実がもっと馬鹿な世界である可能性は否定できないにしろ、フィクションにはリアリティが欲しい。
普通、ミサトたちは笑顔でシンジを迎えるがぎこちなさが隠しきれず、怪訝に感じたシンジは実際の経緯を探るうちに自分がニアサードインパクトを引き起こしたことを知ってしまい、絶望してネルフの甘言に乗せられて出奔する、みたいな展開になるもんだと思う。ただ普通の展開はあえて避けたんだろうとも思うし、できたものはできたもので楽しむしかない。観客のヘイトがミサトたちの意味不明な対応ばかりに向かって、シンジがニアサードインパクトを引き起こしたことに対するヘイトがほとんど溜まっていないように見えるのも不幸中の幸いかも?でも負のご都合が透けて見える状況でシンジがミサトの元から出奔したのに、また負のご都合が透けて見える状況でカヲルが死んだのには苦笑した。あえてなんだろうとは思うけどさ。ラストでアスカがシンジやレイと合流して3人で歩いていく場面は好きかな。
メタ的な話になると、新劇場版の破で第10の使徒(テレビ版のゼルエルに相当)を倒したあとに、旧シリーズであった話を全部すっとばして(ニア)サードインパクト後の話にしてしまった理由はわかる。旧シリーズの終盤の展開はゼルエル戦前後の展開の焼き直しだからだ。
旧シリーズでは、ゼルエル戦の前のバルディエルでシンジは自分の判断ミスからゲンドウの介入を招き、トウジに重症を負わせてしまう。絶望して世界の危機に背を向けてでもエヴァパイロットをやめようとする。しかしアスカやレイを圧倒するバルディエルを目の当たりにしたシンジはエヴァに再び搭乗。バルディエルを倒すがエヴァを暴走させてしまい、自身もLCLに溶けてしまう。エヴァと完全に「ひとつになった」シンジは「気持ちよさ」を味わうものの、他人のいる現実に戻ることを決めて再び実体化する。そして旧劇場版を加えた終盤ではシンジはカヲルを殺し、自己嫌悪もあって人間不信に陥り、またエヴァの搭乗を拒否。アスカのピンチに誘い出されてエヴァに乗るがサードインパクトの起点にされ、全人類のLCL化を引き起こしてしまう。全人類の命運を託される立場になったシンジはリリスであるレイやアダムであるカヲルと対話して、再び人間世界に戻ることを希望。傷つけ合い「気持ち悪い」と罵ってくるアスカのいる現実に帰還する。
だから新劇場版では色々ショートカットするために第10の使徒(テレビ版のゼルエルに相当)戦後にニアサードインパクトが起きる話になるわけだ。たぶん破を作った時点ではそこから旧劇場版とは全く別の方向へ進む話になるはずだったんだろうけど、実際のQは(ニア)サードインパクトの後始末をする話になって、実質的に旧劇場版の尻拭いをするような話になった。でも旧シリーズとかなり性格も経緯も違う新劇場版のシンジにそんな尻拭いを押し付ける意味はないのだ。ただやっぱりアスカがシンジやレイと合流して3人で歩いていったラストシーンは好きだな。