ご都合に肉付け

エンタメは客を楽しませるためのご都合にその骨組が見えないよう丁寧に肉付けしたものだ。ご都合だけの骸骨も軸の通っていない肉塊もどちらもエンタメとしては不出来。バランスが悪くても楽しんでもらうにはよほどの希少性や斬新さが必要になる。
ご都合ご透けて見えまくりな続編&新主人公といえばジョジョ第四部。第三部でもナイスおじいちゃんとして活躍した第二部主人公に突然孫以上に年の離れた隠し子発覚とか無茶苦茶だ。
ジョジョシリーズが長く続いた今でこそ、だってジョジョだし、だってジョセフは女好きだし、でスルーするのが当たり前になってる過去の主人公の不倫事件。でも第四部が始まった直後は、第三部とのテイストががらっと変わったこともあって、失望したと言う人は少なからず見かけた。そんなスタートの無茶さが挽回できたのはクライマックスのエンタメとしての盛り上がりのおかげだし、そこにつながる過程の良さのおかげでもある。
第四部全体のストーリーにエンジンがかかるのはライバル的な岸辺露伴、ラスボスの吉良吉影が相次いで登場した中盤以降だ。日常テイストが強くて杜王町という舞台そのものや単発エピソードの人気が高い第四部。そうした部分が評価されるためにも全体の評価の高さは不可欠だ。前半で人気の高いイタリア料理店のエピソードも、もし後半の盛り上がりがなければ今より肯定的に語られる頻度が低かったかもしれない。
ただ結果論にはなるけど、前半部分も無茶な出発点の割にコケずに助走できていたと思う。まずジョセフに隠し子がいたという事実の発覚と、仗助がそれをなんの不幸にも思っていないことを承太郎に伝えるという対応が1つの話の中で速やかに行われている。むしろ仗助は自分のせいでジョースター家が大騒ぎになったことを元気よく謝っている。メタ的なご都合があまりにもスケスケな隠し子発覚事件で、もし第二部主人公のジョセフが責められるような展開になっていたとしたら、それまでのジョジョファンの反感の矛先は作者サイドや第四部自体や新主人公の仗助に向かいかねない。自分の気に入ってる相手が悪者扱いされるとむしろ被害者の方に憎しみが向かうというのはよくある話だ。前作主人公の扱いを誤ってこれまでのファンから反感を買ってしまい、なかったことにされた続編や新主人公はいくらでも存在する。だからここはご都合にご都合を重ねるかたちになったとしても、突然現れた浮気相手の息子である仗助が読者から認められるためには「人間がよくできたやつ」の対応を見せるのが正解だ。人間なんだかんだ言っても自分たちに都合がいい対応をしてくれる相手のほうが好意を抱きやすい。ジョセフがえらくヨボヨボになっているのもジョセフにヘイトが発生するのを防ぐためで、間接的に仗助にヘイトが向かうことを防いでもいる。
第四部の序盤は話の構想がないところから始めた印象があってややスローペース。でも仗助の「町を守る」というやや抽象的な目的を具体的なエピソードで裏付けする、承太郎・仗助・康一・億泰というメインチームの関係をつくる、億泰と音石の因縁を解消する、仗助とジョセフのわだかまりを完全に解消する、あたりの本番に向けた準備はきちんとできている。これまでのスペクタクルを重視したゴシック・ホラーからは一転し、サイコなモダン・ホラーをやるという路線変更も明確に打ち出せた。ジョジョ第四部は生活感を重視しているので高校生である主人公たちは人を殺さない。
ただ話の必要上仗助はバトル少年漫画の主人公としてはかなり腰が重めのキャラになった。「町を守る」が目的のキャラが変にアクティブだと暴走自警団に見えかねないという事情もあったのかもしれない。だから正義感は強いけど攻撃力は低い康一が先に事件に首を突っ込んで、そのまま康一が事件を解決するか、仗助が助太刀に入るか。それか髪型をけなされるとブチギレるという、判断をすっ飛ばして相手を攻撃させるための設定を使うか。これらのパターンは特に初期に多用された。後半はより主体的に仗助が吉良吉影に立ち向かうようになったため、外部的な理由付けで戦いに強制する必要が低くなった。
一応精神面の成長と絡めてもブチギレる頻度が低くなった理由はこじつけられる。ブチギレるのは、髪型を幼い頃に自分を救ってくれた不良に似せており、その侮辱に敏感なためだという設定が中盤で付いた。作者インタビューによれば仗助がその不良をそこまで尊敬しているのは父親の不在を埋め合わせるためでもあるそうなので、実父とわかり合ってからはブチ切れる頻度が低くなったと考えるとなんだかいい話っぽい。第四部ファンの自分としては本気半分こじつけ半分でそういうことを考える。
ついでに主要人物に父親との関係に問題を抱えているキャラが多いのもそれっぽくこじつけやすい。東方仗助は不倫で生まれた息子。虹村億泰は言葉の通じない怪物になってしまった父親を受け入れている。吉良吉影は父親が幽霊になってからも過保護な愛情を受けている。作者インタビューによれば吉影の母親は息子を溺愛しすぎる虐待をするタイプの女で、父親は見てみぬふりをしたことを吉影に申し訳なく思っているのだそうだ。こういう事情があるにしろ吉良吉影が趣味に前向きでバイタリティに溢れているのが荒木節。ついでに吉良吉影本人は独身主義の子無しだけど中盤で川尻早人の父親を殺害してなりかわっていて、ここでも変形した父親と息子の関係が発生している。