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星を追う子どもはワクワクしない

星を追う子ども

星を追う子ども

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video
 

星を追う子ども』に対する新海誠監督自身の見解はこの討論会の記録に詳しい。

www.cwfilms.jp

星を追う子ども』はワクワクしない映画だ。最初は良いのに徐々に尻すぼみになる映画もあるけど、『星を追う子ども』は最初の30分で辛気臭い映画であることが嫌でも確信できてしまう。ジブリ的に始まることを狙ったというのに全くそうなっていない。ジブリなら冒険活劇のない『となりのトトロ』でも初っ端からワクワクにできる。

女主人公のアスナも2回目のガール・ミーツ・ボーイの相手であるシンも主体性に欠ける人間であることがその原因かもしれない。1回目の相手であるシュンはアスナと出会ってすぐに亡くなる。メインキャラで唯一主体性があるのがラピュタムスカエヴァのゲンドウを足して割ったようなダメ男の森崎だというのは完全にどうかしている。ただ、自分がこの映画の中で好きなキャラをしいて挙げるならば森崎になる。曲がりなりにも話を牽引したキャラだし、動機も具体的でそれなりに納得できるからだ。アスナやシンには、それがテーマとはいえ、動機の具体性が薄い。アスナと森崎には似た方向の動機があって一応共に行動することになる。2人の関係はエヴァのシンジとミサトに似ていなくもないかも?

エンタメを狙っている割にエンタメ性に乏しい。新海監督の演出で辛気臭い美しさを味わいたいなら他の作品のほうが良い。監督はしみったれた感情を甘やかに演出するのがうまいし、そういう感情が好きなんだろう。ただテーマっぽい部分や最後の部分は『星を追う子ども』もまあまあ好きだ。ここで使った要素を上手く構成し直して描写し直せば『君の名は。』や『天気の子』になる。構成は重要だ。

上手く行っていないとはいえ、『星を追う子ども』は新海監督が初めてエンタメ的な構成に挑戦した映画としての意義はある。『彼女と彼女の猫』『ほしのこえ』『雲のむこう、約束の場所』『秒速5センチメートル』、これらはどれも美しくて作家性のある作品だったけど、一般的なエンタメ映画の構成になっていなかった。架空の小説をベタに映像化したような構成とモノローグの多さ。『星を追う子ども』の後の『言の葉の庭』は以前の作風に近い思春期的な恋物語だけど、ぐっと映画的な構成になっている。そして『君の名は。』『天気の子』と続く。

彼女と彼女の猫』は当時の監督の思いが素直に出ている作品として、『ほしのこえ』はロボットものにメタ視線からの愛情を向けた作品として、『雲のむこう、約束の場所』は監督が初めて友情も扱った作品として、『秒速5センチメートル』は感情のみを凝縮させた酩酊感にひたれる作品として、それぞれ楽しい。