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色々な雑記。

逆ギレ

エンタメの逆ギレについて考えてみる。
金田一少年の事件簿で、犯人が若い頃に騙されて麻薬中毒になり、身内に助けを求めるが警察に通報されたと勘違いして逆上、後に連続殺人犯となりその身内に罪を着せて自殺を装って殺害、金田一に謎を解かれ、実は身内は通報していなかったと発覚し、自分の罪を思い知り絶望、っていう展開がある。でももしその身内が本当に通報していても逆ギレには変わりないと思う。一応当時の文脈でいうと、麻薬をタバコや酒程度の軽さで扱うエンタメが多かったから麻薬くらいで警察に捕まるほうがかわいそうって風潮はなくもなかった。でも金田一少年は基本的に勧善懲悪だから、同情できる部分があったとしても犯人は逮捕されて裁かれる。むしろその前提があるから犯人に同情できる。例外もあるけどあくまで例外。
犯人に対して、身内だから庇いたいって気持ちがありうる反面、身内だから罪を償ってほしいって気持ちだってありうる。もちろんもし犯人のためだったとしても通報されたことで犯人が怒るのは当然だろう。でもそれに対して売られたと考えて殺人にまで至るのは、やっぱり逆ギレだ。
エヴァの新劇場版:Qでは、無自覚に世界を滅ぼしかけてしまったがそれを知らないシンジが周りから腫れ物扱いされ、反発して出奔し、真相を知ってからはなんとか逆ギレ気味の精神状態になって自分を支えようとするが、その後も失敗が積み重なって心が折れてしまう、という展開がある。ストーリーとしてはたぶん後の成長のためにシンジに一旦罪を自覚させて突き落とす展開がやりたかったんだろうし、シンジの現状をガキとして叱りつけるセリフもある。たぶん最終作ではシンジが再び立ち上がるんだろう。Qではでも周りの対応が冷たすぎてむしろシンジの逆ギレに正当性を与えてしまう結果になった。不評の多いQだけどシンジ視点で追い詰められる描写は良くできていた。公開当時の反応もミサトたちの大人とは思えない反応に戸惑う感想が多かった一方で、シンジの招いた世界の危機について言及した感想はほとんどなかった。
エンタメは絵空事だから描写しないものは存在しないも同然で、そこに責任を感じろと言われても難しい。自分の期待する方向には目をつぶってきたご都合が突然自分を攻撃する方向に反転すると、今まで楽しんできた自分を守るためにはご都合は現実的でないというある種の正論を言って逆ギレしなくてはいけなくなり、最初から絵空事だった作品そのものに反発するしかなくなる。もしくはその状態を招いたキャラの心変わりを攻撃するか、制作者の態度の反転を攻撃するか。主人公の逆ギレを扱う展開はわかっていてやった場合でも難易度が高い。
自分にとって自分の行動はいつも正当だ。それが他人との関係で正当化が通じたり通じなかったりする。現実的な話だと、この世に存在する人間は全員が「自分」を持っている以上、いずれかの自分が妥協を強いられることは避けられない。ただし狭い世間で常に特定の少数が割を食っているような場合は、そうした構造をなくすように動いた方がより広い世間全体のプラスになることが多い。うまく広い世間を味方につけられれば怒りは逆ギレでなく義憤になる。
エンタメ作品では主人公が多数を犠牲にして悪人になる展開でも、うまく盛り上げられれば面白い。ただし普通のエンタメをやるよりも難しい。