メモ帳用ブログ

色々な雑記。

続・遺伝学で紛らわしい用語。
雑種強勢と雑種弱勢。

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典「雑種強勢」の解説
雑種強勢
ざっしゅきょうせい
heterosis
雑種第1代がその生産性,耐性などの生活力で,両親のいずれの系統よりもすぐれる現象で,逆の場合の雑種弱勢に対する語。トウモロコシ,蚕,鶏などでは昔から知られており,実際に利用されてきた。一般に同系交配を続けたのちの交雑において特に著しいが,生殖能がなかったり (ラバ) ,雑種第2代では現れなかったりするから,常に原種の純系を用意する必要がある。なぜ雑種強勢現象が起るかについては,雑種第1代における対立遺伝子の相互作用説,ほかの異なる優性遺伝子の共存説,さらには環境説などあるが,まだ不明な点が多い。


雑種強勢と雑種弱勢は基本的に人間の価値判断によって区別される。農産物の大型化は一般に雑種強勢とみなされるが、野生生物が資源の限られた状態で大型化すると生存や繁殖に不利になりうる。小型化の品種改良を行った生物(ミニトマト愛玩動物など)などで大型化が起きた場合も好ましくない形質とされる場合がある。
有名なところでは、雌ウマと雄ロバから生まれるラバが雑種強勢の例で、雌ロバと雄ウマから生まれるケッテイが雑種弱勢の例だ。
現在は多くの農産物が雑種強勢により生み出されたF1品種(1代雑種品種)である。F1品種同士から生まれるF2品種(2代雑種品種)を育てても、F1品種と同様の収穫を得ることはできない。F1品種の種は別系統の純系同士から、多くは専門の農場で生産される。植物の場合、F1品種の親になる個体は自家不和合性(自家受粉しない性質)を持つ必要がある。
雑種強勢を説明するのにメンデルの法則(遺伝子の顕性・潜性、分離、独立)のみを用いようとする場合があるが適当ではない。

f:id:magmellblue:20210726184521j:plain

多くの作物で糖度に関わる遺伝子と病気の抵抗性に関わる遺伝子は異なる。メンデルの法則のみで考えると、糖度が高く病気に強い新種を品種改良で生み出し、純系同士で交配すればいいように思える。またF2品種も2個体に1個体は雑種強勢を示しそうに思える。しかし実際はそうならない。
雑種強勢は両親の形質のいいとこ取りを指す場合もあるが、より典型的なのは特定の形質が両親のどちらをも上回る場合だ。例えば、トウモロコシでは同じくらいの収量の特定の品種と別の特定の品種をかけ合わせると、どちらよりも収量の多いF1品種が生まれる。

f:id:magmellblue:20210726190924j:plain

雑種強勢のメカニズムは未解明な部分が多い。近年はジェネティック(遺伝子型やDNAそのもの)な作用だけでなくエピジェネティック(化学物質などによって遺伝子の発現を制御する仕組み。DNAやヒストンを後天的に装飾する。後天的形質だが遺伝する場合があり、獲得形質のごく一部は遺伝する可能性を示唆している)な作用にも注目が集まっている。
同じウマとロバの雑種であるのに、ラバでは雑種強勢が起き、ケッテイでは雑種弱勢が起きる。かつてこの違いは、遺伝的な差異でなく、雌ウマと雌ロバの妊娠可能な仔のサイズの違いによって起きると考えられていた。オス由来の遺伝子とメス由来の遺伝子の発現には差異がないというのが生物学の常識だったからだ。しかしそれだけでは片付けられない違いが両種には存在した。
近年、哺乳類は爬虫類や鳥類と違い、オスの配偶子とメスの配偶子にエピジェネティックな差異があることが発見された。ラバとケッテイの違いもこうした差異に由来している可能性がある。
雌由来の遺伝子と雄由来の遺伝子を区別するエピジェネティックな印(メチル化)を付けることをゲノムインプリンティングという。これによりそれぞれの遺伝子の発現が制御される。ゲノムインプリンティングは基本的には哺乳類特有の現象だが、一部の植物でも見られる。