メモ帳用ブログ

色々な雑記。

そういえば第103話『あんこう鍋』を読み直して今更気付いたんだけど、鯉登平二が中央に不信を持った理由は、親友の花沢幸次郎が無謀な作戦で生じた犠牲の責任をすべて押し付けられて自刃したことそのものではなかった。この回で鯉登音之進は月島の口を借りて「私の父ですら花沢中将の自刃を第七師団の責任とした『中央』へ強い不信を持っているのに」と語っている。指揮官たるもの、作戦の犠牲の責任をすべて押し付けられようが、その結果自刃しようが、それ自体は甘んじて受け入れるべき事柄でしかないということなんだろう。鯉登平二が憤った理由は、あくまで中央が花沢幸次郎自刃の責任をすべて第七師団に、つまり生き残った部下たちに押し付けた点にあった。作戦の不首尾の責任を指揮官が引き受けるのはいいとしても、指揮官の選択の責任を部下たちに取らせること、それだけは鯉登平二には許容できなかった。もちろんこうした指揮官としての道理に加えて、親友から遺書(偽装工作)が送られてきたという心情的な面も多少は後押ししただろう。
こうした道理なら鯉登音之進が鯉登平二に鶴見の告げ口を控えた理由もシンプルにわかりやすくなる。花沢を暗殺したのは実は鶴見たちだが、花沢自刃の責任を部下たちに押し付ける選択をしたのはあくまで中央であり、鯉登平二が中央に抱いた不信感は紛れもない本物だったからだ。鶴見を告発して鶴見と月島が始末されても父親が乗りかかった船であるクーデターを中止することはないだろうし、鶴見たちの反中央感情も能力も本物だろうから、感情以外の面では手を組んでいたほうが得策だ。それならば自分は鶴見や月島から逃げずに最後まで見届けようと考えた。音之進は父親に偽装された遺書が送られてきたことは知らないはずだし。
鶴見たちは既に中央を見限った者として中央が第七師団にそのような対応を取ることを予想していた。だが中央の決定に積極的に働きかけた形跡は見られない。そもそも中央を操れるならクーデターを狙う必要がない。