メモ帳用ブログ

色々な雑記。

鯉登平二の

花沢中将どんは切腹すっときオイへ手紙をくれもした
息子の勇作どんが最前線で戦死して
「愚かな父の面目を保ってくれた」と…

という言葉を再確認。

まず前半部分は、花沢幸次郎は切腹の際に平二宛ての遺書を送った、という意味だろう。オイたちへくれもした、でも、みんなに残した、でもないのだから平二個人あての遺書だ。遺された人たち全員宛ての遺書の内容を平二も読んだのではない。軍人が戦死などに備えてあらかじめ用意していた遺書を正規の手段で平二が読んだのでもない。郵送で平二に送られてきたにせよ、平二宛ての遺書が自刃現場の近くに用意されていたにしろ、何らかの工作が行われていたことは確かだ。花沢幸次郎の自刃は鶴見と尾形による偽装殺人だったのだから。

作中の描写を見る限りでは、自刃をしようとしたが思い直した花沢を鶴見と尾形が拘束しただけ、ということもあり得ない。

遺書に関する工作では、エンタメ漫画的に最もあり得るのが文面からして鶴見たちが捏造している場合だ。

最も工作の度合いが低い場合でも、「切腹すっときオイへ手紙をくれもした」と平二が思っているからには、この切腹のために遺書が描かれたと勘違いさせるような何らかの小細工が加えられていることは確実だ。あらかじめ花沢が書いていた遺書を盗み出し、その中から都合の良いものを見つけて、それを平二の元に送り付けたことなどが考えられる。この場合、戦死などに備えた一般的な遺書でも、日露戦争の莫大な被害を中央に押し付けられた際の自刃の遺書でもおかしくない文面としては、「息子は最前線で戦死して愚かな父の面目を保ってくれた。だから私も自らの誇りを示すために命を惜しまなかったことを後悔しない」のような内容が考えられる。

ただこうした内容の遺書を強引に想像するよりは、文面からして捏造されていると考えるのがエンタメとして自然だと思う。筆跡などの類はエンタメなら凄腕の工作員でもいればどうにでもなる。

こうした工作を行った動機は、鯉登平二に指揮官たるもの大いなる目的のためなら息子の命を惜しんではならず、自分の命も惜しんではならないと追い詰めるためだろう。一度参加したクーデターから逃げてはならないと思わせるためでもある。この話をしている時の鯉登平二は、命がけの旅に送り出すという荒療治によって息子の鯉登音之進を指揮官にふさわしい人間に成長させる覚悟をしている真っ只中だった。平二は指揮官としての責任感が強い人間なので、工作をしなくても自分の命も息子の命も惜しまずにクーデターから逃げなかった可能性が高い。それでも親友がこうした遺書を自分宛てに送ってきたと思い込まされることによって選択の幅が狭まった面はあるだろう。少なくとも鶴見たちはそれを意図していたはずだ。