メモ帳用ブログ

色々な雑記。

鶴見の目的をストーリー進行に合わせて抜き出し、整理しなおしてみる。

■第15話で鶴見は杉元を部下に勧誘。現在の部下は100名弱。アイヌの金塊を軍資金にアメリカ人から武器を買い、手始めに第七師団を乗っ取り、北海道を手に入れ、日露戦争で報われなかった者を救済する、と語った。個人主義の権化のような杉元は一蹴。杉元がこの話を鶴見が北海道独立を目論んでいると捉えたことが樺太編の第210話で明示される。鶴見はここでまるっきり嘘を語ったわけではないが、わかりやすい勧誘のために細部はかなり歪めているし、自分の真の目的は隠している。

 

■第31話『二〇三高地』で設定のし直しも含めて一旦鶴見の目的が整理される。

  • 鶴見は東京に攻め込んでクーデターでもする気かと白石に聞かれて無言の谷垣。これは白石は鶴見を理解していないという反応。
  • 鶴見は今はアメリカの武器商人から武器を買っているが、将来的には金塊で武器工場を作り輸出する側に回りたい。
  • 鶴見は二〇三高地で本陣営の無能さを思い知った。
  • 日露戦争後、政府は理不尽に第七師団を冷遇したという谷垣の証言。
  • 鶴見が部下たちに今後の方針を演説。軍事政権をつくり鶴見がトップになる。今の部下たちは鶴見の親衛隊になる。金塊を資金源にして武器工場を作り、日露戦争で家族を喪った者たちに長期的で安定した仕事を与える。現在の窮状から救い出す。「それが死んでいった戦友たちへの せめてもの贐である」。

この鶴見の演説内容は、完全な嘘ではないが、都合の良い部分だけを抜き出した建前だ。実際は日本繁栄のために北海道と第七師団を利用する計画を日露戦争前から進めていた。自分の部下たちも日本繁栄のためなら切り捨てられる。第七師団が冷遇されたのも鶴見が花沢中将を暗殺したせいだ。

 

■第150話で満州にて鶴見が戦友の骨が眠る地を日本の地にしておくために奔走すると呟き、月島がそれを聞いた。

月島が鶴見にいご草ちゃんで嘘をつかれていたと考えても、敵の砲撃からとっさに庇えたのはこの呟きに感じ入ったため。この呟きは嘘ではないが、実は日本繁栄への道のかたわらにある個人的な弔いに過ぎず、優先順位は低い。

 

■第208話で鶴見の目指す先が北海道独立ではないことが示唆される。

鶴見が自分を裏切ろうとしている有古を脅す。土方の北海道独立計画にはアイヌからの信頼と支持が必要なので裏切りにも徹底的な報復ができない、しかし自分は和人にもアイヌにも平等に制裁を加える、と言い、有古の家族の名前を挙げていく。

 

■第210話『甘い嘘』で鯉登と月島の対話により、傍で汚れ仕事をしてきた者の視点で鶴見の目的が語られる。

  • 満鉄計画を推し進めるために鶴見が花沢中将を死に追いやり、鯉登の父親の大湊水雷団を政権転覆に利用するために鯉登の誘拐事件を仕組んだことに、鯉登が気が付く。
  • 押し問答の末、月島が鯉登に自分の知るすべてを暴露してしまう。鶴見の進む道とは第31話での演説と概ね同じで、金塊を資金源に北海道で軍需産業を育成、政変を起こし軍事政権を樹立、第七師団の地位向上、第七師団の戦友が眠る満州を実質的な日本の領土に、というもの。その先に本当の目的があるのかすらわからない。だが鶴見が目的を果たす過程で政権転覆や満州進出が必要不可欠ならば、鶴見についていく者たちは救われる。月島はこう考えている。
  • 杉元は鶴見の目的は北海道独立だと騙されたままであり、鶴見はアイヌを無下にはしないはずだとアシㇼパに語る。

鯉登が鶴見の目的は「政権転覆」だと断言する。月島も鶴見は政変・政権転覆を起こして軍事政権を樹立する気だと語る。これまで鶴見の目的だと考えられていた北海道独立が方便でしかなかったことが確定する。

 

■第270話~第271話で鶴見がアシㇼパに自分の目的を語り、鯉登と月島が盗み聞きする。

鶴見は自分の目的とは日本国の繁栄だと語る。金塊を元手にして得た軍資金で他国の脅威から日本を守るために戦い続ける。進むべき道のかたわらにウラジオストク占領による妻子の弔いや満州進出による戦友の弔いという個人的な祈りはあるが、そのために道をそらすことはない。日本の分断は軍人として許せない。極東連邦国家にも北海道独立による蝦夷共和国にも反対であり、北海道は日本に帰属意識を持つ者に統治されるべきだ。日本人は結束しなければ生き残れない。

鶴見の本当の目的とは日本国の繁栄だと鶴見自身によって語られる。この時点ではまだ疑う余地があったが、後の展開で本心であることが確定する。ただし北海道での軍需産業の育成や第七師団の地位向上は必要不可欠ではなく、場合によっては切り捨てる対象でしかないため、鶴見の目的達成と鶴見についていく者たちがみんな救われるかどうかはイコールでは結ばれていなかった。鯉登と月島はまだこの時点ではそれに気付いていない。

鶴見の目的が北海道独立ではないことが改めて確認される。

 

■第288話で金塊が土地の権利書に変わってしまったことを知った鶴見が部下たちに演説のやり直し。

満州の開拓事業は崩壊しつつあり、このままでは満州も北海道もロシアに奪われる。軍政を復活させ、一元的に管理して立て直す。金塊は土地の権利書に変わってしまったが、その土地で芥子を栽培してアヘンを製造して資金源とする。その資金で満州利権を独占し、満州でも栽培地を広げる。「皆が豊かになる道には 死んでいった戦友たちへの弔いがある!! 愛する者たちが眠る大地を ケシの花で埋め尽くすのだ!!」

それなりに盛り上がる演説だが実は筋が通っていない。政府が軍政から民政に変えた満州の開拓事業で軍政を復活させるには政権転覆が必要なはずだがそれは伏せている。そして満州が奪われれば北海道も奪われると、論理を飛躍させつつ身近な危機を煽っている。「北海道アヘンで満州利権を独占し」とは、北海道アヘンによる軍資金で政権転覆を起こし、軍政を復活させ、その利益を第七師団が独占する、という意味でいいのだろうか。困難が伴いそうな部分に限って言及が避けられている。「皆が豊かになる道」が部下たちに忠誠を誓わせるには効果的な言葉だと知りつつ、この後鶴見は部下たちを放り出して単身で満州に高飛びしようとする。