メモ帳用ブログ

色々な雑記。

鶴見はジョージ・オーウェルが言うところのパトリオティストではなくナショナリストだった。


そして始まりからして矛盾していた。鶴見は第271話『まだら模様の金貨』で「あくまで北海道は日本に帰属意識がある者によって統治されるべきだ 先祖からその国に住み 育てられた故郷を大切にし 暮らす人々を愛する者だ 日本人は結束しなければ生き残れない」と語った。しかし北海道は元々日本という国には属していなかった。鶴見は偏狭な民族主義には陥らず、和人もアイヌもどちらも日本人だとは考えているが、先祖の話を持ち出しながらも、北海道が日本領でアイヌが日本人だという点は譲るつもりがない。また、北海道が日本から切り離されることを「言語道断」と語りながら、満州ウラジオストクを他国から切り取り新たに日本領へ加えようとしてる罪を棚上げしている。なお、ファシズムの訳語には全体主義だけでなく結束主義が用いられることもあり、結束主義のほうが直訳的だ。
鶴見が語るのは自分が食う立場にならなければ食われる立場になるという当時の弱肉強食の国際社会の現実ではある。だから一定の理はある。しかしアイヌの誇りを守りたいアシㇼパやロシアの極東民族と協力してきたソフィアの抵抗をやめさせるにあたっては気まずくさせる以外の意味がない。彼女たちも自らが食われる立場にならないように力を必要としているだけなのだから。
そもそも鶴見は自分がフィーナの祖国を切り取ろうとしている点をどう考えているのだろうか? 鶴見はフィーナについてこのように語っている。

フィーナは勘のいい女性だった
私がただの在留邦人ではないと気づいていたと思う
それでも離れなかったのは私の愛だけは信じていたからだ
フィーナの死に際……
私は彼女に自分の本当の名前を知って欲しくなった
決して「裏切りの告白」などではない
勘のいい妻ならわかってくれたと信じてる

もし鶴見とフィーナの間に裏切りがなかったとするなら、鶴見はフィーナに祖国を裏切らせていた。そしてフィーナの祖国と戦争をした。だがその点についての葛藤は見えてこない。
あくまで鶴見の第一目的は日本国の繁栄で、妻子の弔いも、戦友の弔いも、進むべき道のかたわらにあるものでしかないからだろう。鶴見がそうなったのは任務中に妻子を死なせてしまったためなのかもしれないが。
だがそんな鶴見も最終的にはウイルクの遺したまだら模様の金貨、均一に混ざり合わないままにひとつになろうとした象徴、によって国を守った。アシㇼパと杉元に敗北し、長い年月を経たことで心境の変化があったのだろう。