メモ帳用ブログ

色々な雑記。

鶴見と愛ですの4人の関係について書こうとするとダイジェストにしようとしてもいつも月島と鯉登がえらい長くなる。しかもほぼ前書いたことの繰り返し。それでもこの2組の関係はちょっとでも省略しようとするとわけわかんなくなるからな。


鶴見勢力って鶴見が部下たちに殺人の抵抗を乗り越えさせるために愛を利用しているせいでまるで鶴見ファンクラブのような印象だけどそうではない。普通の軍隊だって部隊の仲間や兵士と指揮官は愛と信頼関係で結ばれているというし、指導者がそれを意図的に強化した集団というだけだ。実態としてはクーデターを狙う政治結社ということになるだろう。政治結社なので、指導者だろうがもし結成時に掲げていた政治目的を放棄するのなら結社に留まることはできない。鶴見勢力は日露戦争で報われなかった兵士たちの救済という政治目的を指導者の鶴見自身が放棄し、失踪しため、新入りの若手幹部だった鯉登が指導者の座と政治目的を引き継ぐことになった。鯉登も月島も、鶴見が指導者の座と政治目的を自ら捨てたことを知らない。
幹部4人のうち、宇佐美は明確に鶴見という男に惚れ込んでいる。もし生きていれば、鶴見がすべてを捨てようが鶴見という男についていこうとしただろう。
月島はかつて鶴見のことを信頼できる上官であり、戦友であり、生きる希望と道を示してくれた恩人だと考えていた。だから政治目的がはっきりしない頃から鶴見につき従い、汚れ仕事を任されようとも引き受けられた。
だが奉天での策謀に気付いた瞬間その信頼は粉々に打ち砕かれる。その後も鶴見に従い続けたのは鶴見に直接執着していたためというよりも自分に逃げ場などないと思い込んでいたからだ。逃げ場がないから鶴見に執着する理由を探す必要があった。だから鶴見がなにかとんでもないことを成し遂げくれるという期待に縋った。もう鶴見個人は前向きに信頼できないため、鶴見の本当の目的が前向きなものとは思えなくなっていたが、とんでもなけれさえすれば構わないと思っていた。自分の捨ててきたものや痛みと見合うためには、鶴見の本当の目的は大きなものでなくてはいけない。
鶴見を個人としては信じられなくなった一方、政治結社の指導者としては、北海道で軍需産業を発展させ、政権転覆を起こし、第七師団の地位を向上させ、満州を日本領にして亡くなった戦友を弔ってくれることを、月島は信じていた。だから鶴見に従うことにギリギリ精神が耐えられたと言っていい。
そして、鯉登から鶴見がくだらない人間のはずがないから自分とともに鶴見を前向きに信じてみようと言われ、鶴見の本当の目的が日本繁栄という大きい上に義さえ備わっているものだと確認できた時は本当にうれしかっただろう。政治結社の指導者としての鶴見は疑いなく心酔できる。個人としては信頼できなくなったことなど目を瞑れるし、個人としても鶴見にはやはり恩がある。だがここで鶴見に対して生まれた強烈な信仰はこれまで与えられてきた苦痛の反動という病的なものだった。そして何よりそうなるように鶴見に仕組まれたものだった。
尾形は鶴見に離反したがその目的は追い詰められた鶴見が自分に頼らざるを得ない状況を作ることにあった。それは鶴見を参謀にして、自分が欠けた人間のまま第七師団長になり、第七師団長などくだらないと証明するためであり、自分の親代わりになりうる鶴見の愛と視線を独占するためでもあった。母親が自分を見ずに自分を通して父親だけを見ているということが尾形のコンプレックスの淵源だった。
鯉登は父親との関係に悩んでいる時に鶴見に出会い、不良行為と甘えを叱られ、鶴見を慕うようになった。その後誘拐されたところを父親と鶴見に救出され、崇拝めいた憧れを持つまでに至っていた。それは限りなく初恋に近い憧れであり、父性に飢えた女性が父の影を求めて年上の男性と恋愛関係に陥るような、女学生が身近で立派な大人である教師に恋愛感情を抱くような、自分より遥かに上の相手に対する尊敬と盲信が強く含まれた感情だった。
誘拐事件が鶴見の自作自演だったと知った際は激しく混乱したが、鶴見中尉殿はすごくて自分はそんな相手から必要とされていて嬉しいのだと、どうにか自分を納得させた。盲信は冷めてしまったが、鶴見個人への愛と指揮官や政治結社の指導者としての信頼は損なわれなかった。だから鶴見が部下たちに話している政治目的を実現するためなら、自分と父親は利用されても構わないと月島に断言できた。さらに、鶴見に本当の目的があるのなら確かめてみよう、鶴見がくだらない人間とは思えないから前向きに信じてみよう、と月島と約束した。そして鶴見の本当の目的が日本繁栄という大義あるものだと盗み聞きし、安堵する月島を見て自分も喜ぶことができた。しかも鶴見の大義が嘘ではなかったことは後の展開で確定する。
だが実は鶴見は盗み聞きに気付いていた。その上で月島と鯉登を心酔させるために最大限の演出を施して鶴見劇場を上演していた。鯉登はその演出に気付いたことで鶴見への信頼が改めて大きく揺らぐ。さらには鶴見が五稜郭のかつて監禁した建物に鯉登を連れ込み、月島が奉天でされたように事件の真相に触れる鶴見劇場を行って鯉登を嘘で試して愛を捧げさせようとしたことを察したため、鯉登の鶴見に対する信頼は完全に失われてしまった。そのため鯉登はもう味方ではいられなくなったことを鶴見に告げざるを得なくなる。それでも鶴見に対する初恋のような愛は完全に消え去ることはなかった。鶴見が大義のために政治結社の指導者の座と政治目的を自ら捨てようとは想像すらできなかった。