メモ帳用ブログ

色々な雑記。

これは前書いたこととほぼ同じようで解釈が変わった部分。この流れだとちゃんと確認しておく必要があるな。
第232話で鯉登は鶴見についてこう語った。

ただ私は鶴見中尉殿が皆を犠牲に己の私腹を肥やさんとしたり
あるいは権力欲を満たしたいだけの…
くだらない目的を持つ人間とは到底思えないのだ

この推察は当たっていた。だがこの時点の鯉登は鶴見のすべてを理解できていたわけではなかった。
第203話で月島はこう語っていた。

金塊を資金源に北海道の豊富な資源を利用し軍需産業を育成
政変を起こし軍事政権を樹立
第七師団の地位向上
その先には「我々の戦友が眠る満州を実質的な日本の領土に…」
大変よろしいじゃないですか

でも…
「鶴見中尉殿が行こうとしている場所」の途中に
政権転覆や満州進出が必要不可欠ならば
彼について行っている者たちは救われるんだから…
何の文句もないはずだ

第231話で鯉登はこう語った。

月島…お前は
「鶴見中尉殿の行く道の途中でみんなが救われるなら別に良い」
と言ったな?
私も同意見だ
そのために私や父が利用されていたとしてもそれは構わない

月島と鯉登の会話は実は作劇上の意図として少し噛み合わないものになっている。
第232話で鯉登は同胞についてこう語っている。

「同胞のために身命を賭して戦う」
それが軍人の本懐だ!
そうだろ月島

また第295話で鯉登は父の戦死を察し、敗色濃厚の現状でも部下たちを守ろうと鶴見に諫言した。

私たち親子がここまで来たのは
自分たちの選択ですからどうなっても受け入れます
だがもしもの時は部下たちを中央から守るために…
私はあなたを…

第231話で鯉登の言った「みんなが救われる」とは、北海道での軍需産業の育成や第七師団の地位向上のことを指している。鯉登は兵士たちが少しでも多く生き残って豊かな生活を送れるようになることが救いだと考えている。日露戦争で勝利に貢献したにも関わらず報われなかった兵士たちの救済、という鶴見の語った建前、兵士を利用するための甘い嘘を、疑いなく信じている。ほとんどの兵士たちと同じく、政権転覆や満州進出はそのための手段だと認識している。
一方月島が「彼について行っている者たちは救われる」で挙げているのは政権転覆と満州進出だ。月島はたとえ鶴見勢力の兵士が全員戦死しようとも、この2つの目的が達成されるのならついて行った者たちは救われたことになると考えている。月島は日露戦争以前から鶴見が陰謀を巡らせていたことを知っている。長い間第七師団に所属しているため、鶴見が花沢幸次郎を暗殺させて第七師団を冷遇させ、第七師団の兵士たちを裏切っていることも、自分がそれに加担していることもよくわかっている。最近第七師団に加わったばかりで鶴見の陰謀からも遠ざけられていた鯉登とは違う。だから兵士たちの待遇改善など建前でしかないことを月島はよく理解していた。それでもその命が政権転覆と満州進出という大きなものの礎になるのなら兵士たちは救われるはずだと思い込もうとした。同じく、日露戦争で既に亡くなっている部下たちを弔うためにも大きなものが成し遂げられなくてはならないと考えた。
月島がこのように考えられたのは、おそらくこの時点で自分自身が生きて救われようとは思っていなかったからだ。この点も、鶴見や同胞のために戦えるのなら死んでも構わないとは思っていただろうが、死ななくてはならないとは考えていなかっただろう鯉登とは違う。
月島は第150話の回想でこう語っている。

鶴見中尉殿に救われた命ですから
残りはあなたのために使うつもりです
そして死んでいった者たちのためにも

月島は鶴見の策謀で、自分は死刑がふさわしい人間で本当は生きているべきではないのだと思い知らされた。一時は信じられた自分の人生の価値を踏みにじられた。だから自分の命は鶴見と死んでいった戦友たちのために使い切り、鶴見がなにかとんでもないものを成し遂げたところを観られれば、もうその後は生きていてはいけないのだと思い込んだ。自分のような死刑にふさわしい人間の命は、鶴見以外の生きている人間のために使うことなど許されない。だから富豪の妻になり幸せに生きているだろういご草ちゃんの髪を捨て、いご草ちゃんのために存在した自分の心も捨てた。だが鶴見の策謀に気付き、命を捧げなくてはならないはずの鶴見が信じられなくなり、魂が腐食していく。そんな時に月島は生きた人間である鯉登と行動を共にするようになり、必要とされ、嘘と裏切りを許され、魂を救われ、やがて鶴見から解放されて鯉登の右腕となった。