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色々な雑記。

月島の過去が混乱されがちなのって、鶴見が月島に語った佐渡ヶ島の真相の内容が1回目も2回目もいかにもマンガって感じで現実からかけ離れているせいもあると思う。読者が勝手に鶴見の語る内容を疑ってしまうし、月島も信じていないに違いないと思い込んでしまう。でもゴールデンカムイはマンガらしいマンガだから鶴見の語った佐渡ヶ島での真相は本当に真相だ。月島もそれを疑っていない。
月島の過去編は月島が杉元に暗い顔で忠告するシーンを導入にしている。

次は殺す
自分を制御できなければ
いつか取り返しのつかないことになる

素直に読めば、月島には自分を制御できずに取り返しのつかなくなった過去があり、そのことに深く自己嫌悪を抱いているが故に杉元にも厳しい言葉をかけざるを得なかったというシーンだ。これから明かされるのはその過去ということになる。回想のクライマックスでは、恋人であるいご草ちゃんのためだと暴走しがちな月島がまさにその点をいご草ちゃんに諌められているシーンがあり、この回想が恋人のいご草ちゃんのためだと自分を制御できなくなる月島がそのために取り返しがつかなくなったという結論になっていることが確定する。
もしいご草ちゃんが月島の父親に殺害されていたのだったら、月島が自分を制御できずに取り返しがつかなくなったわけではないので、結論と矛盾する。鶴見の語った内容が本当で、いご草ちゃんは東京に嫁いでおり月島は早とちりで父親を殺害してしまった、少なくとも月島はそう認識しているのだったら、結論と合致する。鶴見の言葉が嘘か本当かわからなくなり真相に確信が持てなくなったのだとしたら、そのことも取り返しのつかないことと言えなくもないが、この場合も月島が自分を制御できなかったせいではないので、やはり結論と矛盾する。また、この場合なら月島はいご草ちゃんの髪を捨てる踏ん切りをつけられないだろう。
ただ、話の内容で表現されている結論を考えずに、話の流れだけを追うと、月島はいご草ちゃんが実は亡くなっていると確信して絶望したように読めなくもない。佐渡ヶ島の真相(本当に真相)がいかにもマンガ的すぎる点はどうしても読解のネックになる。この場合、月島は嘘をつく鶴見に対し、あえて念押することで試すつもりで「じゃあ彼女は…」と言ったのだが、鶴見が構わずに嘘をつき続けたので絶望したと解釈すれば、話の流れは通じる。髪を捨てたのも絶望のあまりということになる。
そしてこの誤解に基づけば、第220話『甘い嘘』で鶴見が鯉登に語った鶴見は「『甘い嘘』で救いを与えるのがお得意」の「甘い嘘」とは、いご草ちゃんが生きているという嘘を指すことになる。本来の解釈なら、死ぬ気になってロシア語を勉強すれば恩赦が受けられるという希望や、「戦友だから」お前を助けたかったという愛情を指すことになる部分だ。
だが実はいご草ちゃんが生きていることは第276話で明らかになるので、月島は勘違いで鶴見を嘘つきと決めつけて絶望し、しかもその勘違いは最終回でも解消されていないことになってしまう。こうなると鶴見がまるで部下から試された挙げ句誤解された被害者のようなことになる。また五稜郭のあの建物で鯉登が鶴見に部下の扱いを巡って直談判した時も、鯉登が鶴見を自分に縋らせたいあまりに試したような印象になってしまう。一方で、鶴見はなぜか佐渡訛りの男を使っていご草ちゃんが亡くなっていることを示唆したにも拘らず甘い嘘でそれを隠そうとした訳のわからない男ということにもなる。実際のところ、鶴見が愛されるために部下を試した男だったことは登場人物通知表に明記されているので、やはりこの解釈は誤りだ。五稜郭で鯉登は鶴見が既に不誠実な指揮官であることを悟りつつ、それでも部下である将校として真摯に向き合おうとした。だが鶴見が案の定まともに応えず、鯉登は悲しんだのだ。