メモ帳用ブログ

色々な雑記。

死者のために自分の人生を使うのと同じくらい、死者のために自分を許さずに生きていくのは単なる自己満足だ。本当に相手のために何かをしたいなら、相手が生きているうちに手を打たなければ意味がない。それでも実のところ自分のためでしかない悲しみに浸って生を終えるのか、そこから抜け出して生きていくのかは個人の選択次第だろう。
杉元は日露戦争で敵兵を殺し、自分を庇った親友が死亡したことで長い間罪悪感を抱えて生きてきた。だが北での旅の果てに「役目を果たすために頑張った今の自分が 割と好きなんだよ」と自分を許すことができた。杉元には日露戦争の前から他人の罪悪感を理解して慰められる優しさがあった。弟は自分のせいで死んだのだから「どうせ… 俺は地獄行きの特等席だ」と自分を責める菊田に「もう自分を許して前に進んだら?」と声をかけた。この時に他人を許せたから、杉元は将来自分も許すことができたのだろう。
この杉元の言葉は確かに菊田の心に沁みた。ただ、心を動かすまでには至らなかったようだ。気付かぬままに敵として再会し、札幌で「テメエら全員地獄へ直行させてやる!!」と叫ぶ杉元に対して、菊田は「上等だよ それなら俺は特等席だぜ!!」と言い放った。このやり取りで2人はようやくお互いを思い出した。また、菊田は鶴見に致命傷を負わされた際、凶暴で優しい杉元のことを思い浮かべながら「あんたを倒すのはノラ坊さ」と言いつつも、「地獄行きの特等席…… 俺のとなりを空けておきますよ」と告げた。自分が地獄行きの特等席がふさわしい人間だという菊田の認識は最後まで変わらないままであり、さらに追撃を受けて息絶えた。菊田にとどめを刺したのは月島だった。月島は「鶴見中尉殿のとなりは私の席だ」と宣言した。もしこの後列車の中で鯉登が無理に引き止めなければ、月島は間違いなく鶴見の傍らで絶命していただろう。そして鶴見は月島の死を背負ったつもりになり、さらに列車事故で部下たちを全滅させてその死も背負ったつもりになり、日本繁栄への道を突き進もうとしたはずだ。だが、もしそうしていたら、心の重荷が無意識の負担となり、最後の杉元との戦いから生還できなかったのかもしれない。