メモ帳用ブログ

色々な雑記。

奉天で月島はいご草ちゃんが佐渡ヶ島で亡くなっていたと鶴見の策略により誤解させられた。いご草ちゃんの生存を自分に伝えた鶴見を「九年間ずっと騙していたのか!?」と問い詰めた。鶴見は「お前が死刑を受け入れていたからだ」「『えご草ちゃん』が生きているとわかって… 自分が死刑の身であることに後悔が生まれたはずだ」と答えた。鶴見はいご草ちゃんは本当に生きていることも教えるつもりだったが、とりあえず月島に自分の話を聞かせて自分の費やした労力を訴えるため、いご草ちゃんが生きていると騙していたような言い方をしている。
鶴見がはじめて監獄へ面会に行った時の月島は、いご草ちゃんが自殺したと勘違いし、自殺の原因とされた月島戦死のデマを流した父親を殺害し、「尊属殺人で死刑の身ですが とりあえずあの子を死なせたクソ親父だけは殺せたので満足です」と死刑を受け入れていた。そこで鶴見は月島の処刑を回避するために数々の策を講じる。当時の鶴見は自分への愛で殺人の抵抗感を乗り越える部下を作り上げようと計画しており、月島にその資質を見出したようだ。佐渡ヶ島へ赴いて事実確認し、いご草ちゃんが死んでいなかったことを知り、月島が戦死したと勘違いしたままのいご草ちゃんが一緒に埋めてほしいと渡してきた髪を月島に手渡した。戦死していないことを伝えるべきだったかと鶴見に問われ、月島は「いいえ… いまさら彼女に何もしてあげられませんから」と呟いた。この時、もはやいご草ちゃんに何もしてあげられない死刑の身となったことに月島は強い後悔を抱いた。いご草ちゃんが生きているのなら父親を殺害した自分の正当性が失われることに気が回らなくなるほどに。鶴見はその後悔を察知し、ロシア語を死ぬ気で勉強すれば温情が与えられて牢から出られると希望を示した。
奉天までの九年間、月島は自分がいご草ちゃんと同じ空の下にいて、いつか再会したり、何かしてあげられたりするかもしれないことをずっと夢見ていたのだろう。一方で、いご草ちゃんのことで九年間ずっと騙されていたと思い込んでもなお命懸けで庇えるほどに、鶴見を慕ってもいた。満州で亡くなった戦友たちの慰霊碑に「お前の骨を守るために 我々は狂ったように走り続けるぞ」と語りかける鶴見の姿は心に深く刻まれていた。だが自分への愛で動く兵士を作ろうとしている鶴見にとって、それだけでは不十分だった。
奉天での一件の末に、月島はとうとう「鶴見中尉殿に救われた命ですから 残りはあなたのために使うつもりです そして死んでいった者たちのためにも」と鶴見に伝えてしまった。自らいご草ちゃんに対する未練を断ち切った、そう考えるように鶴見に仕向けられた。いご草ちゃんのためにすら何もできないのだから、他の生きた人間のためになど何かしたいと思うわけがない、はずだった。個人的な感情やそのために生きたいという希望などすべて捨てた、そういうつもりになった。鶴見は部下として利用するために月島のいご草ちゃんに対する愛を煽り、捨てさせた。月島は鶴見の企みに気付かぬままにいご草ちゃんの髪や手紙を捨ててしまった。