メモ帳用ブログ

色々な雑記。

鯉登にとっても戦友という概念は思っていたより重要そうなので整理。部下たちに対する責任を持つ、の前に、鶴見の戦友になることだけを考えていた鯉登が月島や谷垣を無意識に戦友と感じるようになる、が来る感じ。
鯉登の戦争初体験は五稜郭攻囲戦だけど、キロランケとの戦いで鯉登と月島・谷垣は「互いの背中を預けた戦友」と言っていい関係になったはずだ。網走監獄襲撃はほぼ一方的な虐殺だったし、鶴見・月島・鯉登のいずれも命の危機を感じているようではなかったから除外。特別作戦くらいの位置付けだろうか。世の中には特別作戦という名目で戦争を始める国もあるけど。もし網走監獄襲撃で仲間意識が生じるとしたら共犯者意識のほうだろう。


鶴見ははじめから利用するつもりで14歳の鯉登に近付き、「また偶然会えたのなら お互い友人になれという天の声に従おうではないか」と告げた。そして偶然を装って16歳の鯉登を自作自演の誘拐から救い出した。
五稜郭攻囲戦で鶴見は月島を伴い、かつて誘拐した建物に鯉登を連れ込んだ。おそらく鶴見が月島に奉天で行ったのと同様の鶴見劇場を行う予定だったはずだ。その建物には未だに干からびた月寒あんぱんが残されていた。それを見て鯉登は「月寒あんぱんのひとがついた甘い嘘…」と呟いた。鶴見は孤独だった14歳の自分に手を差し伸べ、優しい言葉をかけてくれた。それすら嘘だったことを鯉登は再確認した。その言葉に反応した鶴見に鯉登は詰め寄った。鶴見は自分も、月島も、その他の部下たちも、この場にいる戦友の全員を甘い嘘で利用してきた。そして甘い嘘で救われ、自分の選択でこの場に立っている自分とは違い、部下たちにはおそらく彼らの望む救いは与えられない。
鯉登は樺太編の以前、2度ほど戦争への憧れを口にし、その度に鶴見が戦友と並ぶ写真の戦友の顔をすべて自分の顔にすげ替えてきた。鶴見と戦友になりたいという思いが暴走するあまりだろう。この時点の鯉登は、既に比較的懐いていた月島の存在や反応すら無視してしまうほど、鶴見に夢中だった。鶴見以外の人間には無頓着だった。
しかし父親から指揮官として成長することを望まれて樺太に送り出され、月島・谷垣とともに命がけの戦いで勝利を掴んだ。特に月島は爆弾から自分を決死の覚悟で庇ってくれた。鯉登は鶴見以外の人間を自然に戦友だと感じるようになったはずだ。鯉登の極めて狭かった視野は広がった。
そんな中で鯉登は鶴見が自分たち親子を嘘で利用していたことに勘付く。鶴見、そして隣に立つ月島の顔を鯉登の顔とすげ替えた写真から、鯉登の顔は剥がれかけた。問い詰めた月島は真実を白状した。鯉登が運命と信じた再会は策略だった。
それでも鯉登は、ついて行った部下たちに救いを与えられるという鶴見中尉殿は凄くて、そんな人から必要とされている自分は嬉しいのだと、自分を納得させようとした。盲信から覚めたとはいえ鯉登はまだ鶴見を愛していた。その一方、目の前にいる月島がどう考えても救われていない事実を直視できなかった。だから鯉登は小樽で月島と再び向き合い「私は鶴見中尉殿と月島軍曹を最後まで見届ける覚悟でいる」と言った。月島が「私は鶴見劇場をかぶりつきで観たいんですよ 最後まで」と言うなら、自分も最後まで見届けなければ鶴見が「みんな」を救えるのか確認できない。鶴見を心から信じるためには本当の目的を確かめる必要がある。鯉登はようやく胸のうちのすべてを言葉にできた。月島に樺太では本心だったのか誤魔化そうとしたのかと聞かれ、「どちらとでも好きにとれ」と答えたのはそのためだろう。この対話の後、鯉登は鶴見と月島のツーショット写真で月島の顔を自分の顔にすげ替えていた部分を少し修正し、月島と自分の顔が半分こになって鶴見と並ぶようにした。
そして鯉登は五稜郭で鶴見の真実の姿を知る。鶴見は窮地で部下の助力を求めるにしろ、まっすぐに相手を見て正直に話すのではなく、嘘と演出を使って絡めとろうとしてくる男だった。自分を嘘つきだと知らない人間や、嘘つきだと知っていても甘い嘘を求めてくる人間が相手なら、鶴見はいくらでも相手の望む言葉をかけられた。月島には戦友だと言い、宇佐美には一番のひとだと言い、14歳の鯉登には友人だと言った。宇佐美は鶴見が最後にかけてくれた言葉が甘い嘘だとわかっていただろうが、それでも本当に嬉しかったはずだ。だが鯉登は鶴見が嘘つきだと知りつつ、なおも鶴見を愛してついて行くために本当の姿を確かめたいと願っていた。鶴見がいつかまっすぐに向き合ってくれることを期待していた。そんな鯉登にもはや鶴見の甘い嘘は通用しなかった。
鯉登は嘘でできた愛しか与えられない人間に本物の戦友の絆を結んでほしいと願った。だが、やはりそんなものは最初から無かったのだ。