メモ帳用ブログ

色々な雑記。

すずめの戸締まりの登場人物はみんな単純な損得を超えて行動している。
すずめの戸締りでは


自分にとって大切な人を救うことで自分自身も救われるということを繰り返し描いている。
鈴芽が草太を救い、自分自身を救ったことは作品を貫く軸だ。
環は亡き姉の娘であるすずめを引き取り苦労を重ねてきた。中盤で不満を吐露させられてしまうが、鈴芽と一緒に暮らして得たものはそれだけではなかったことを確かめ合う。映画の制作序盤に作られ、新海監督やスタッフ、声優から大いに参考にされたというイメージソング「tamaki」は、「あなたが嫌いだった」という言葉で始まり、鈴芽に対する鬱屈とすれ違いと愛情を歌い上げ、「あなたは光だった」という言葉で終わる。
芹澤は直接的には草太を救えなかったものの、鈴芽が草太を救えたのが芹澤のおかげであることは間違いない。芹澤は大学での親友であり恩人でもある草太の救助に貢献したことで自分の人生に一区切りつけられた。モラトリアムを終えた。
草太はかつて夏風邪で弱った芹澤を看病したことがある。芹澤は体だけでなく心も救われた。「つかのまの水面 ~芹澤のものがたり~」は芹澤の一人称の小説であり、草太の内面は描かれていない。しかし芹澤が寂しかったのと同様に草太も寂しさに耐えていて、芹澤との関係により救われていたことが示唆されている。草太の抱えている事情について尋ねた時、「すこしだけ眩しそうな顔で、俺を見た」と芹澤は感じた。
草太は芹澤に光を見た。芹澤はミミズを見ることすらできない正真正銘の只人だ。閉じ師としての草太にとって只人は守らなくてはならない存在であり、仕事のやりがいを感じさせてくれる存在でもある。草太は確かなことを何一つ明かせなかったが、それでも芹澤は草太の友人でいてくれ、教師というもうひとつの夢を分かち合ってくれた。閉じ師としての草太も、教師になろうとしている草太も、芹澤というお人よしだが俗っぽくて特に非凡でもない親友に支えられるところは大きかっただろう。後に草太の戦友となり運命共同体となる鈴芽とはまた違った絆の在り方だ。
個人的な印象だと、草太は小中高と人間関係で大きくしくじることなく、周囲の人間から踏み込まれすぎない距離をうまく保って人付き合いを続けてこれたのではないかと思う。それと引き換えに「お友達」はできても「親友」はできなかった。「お前は自分の扱いが雑すぎる」と踏み込みすぎたことを言ってしまい、半ば自己嫌悪でその場を離れてしまったような経験は今までなかったのかもしれない。ようやく仕事を終えて芹澤とLINEで連絡を取ろうとして、いつまでも既読が付かずに焦ったのかもしれない。だがそうしたすれ違いが生まれるのは、やはり人と人が近づきたいと思い合うがゆえなのだ。