メモ帳用ブログ

色々な雑記。

『すずめの戸締まり』はタイトル通りに戸締まりと「行ってきます」の話だ。


閉じ師の仕事とは場所の死を受け入れ、悼み、土地を自然に返すことだ。あるべき姿を失った土地をあるべき姿にすることで災いを防ぐ。
ミミズとは大地の神そのものだ。大地とはマントルの脈動する地球であり、積み重なった生物の死骸だ。人は土から生まれて土に還る。ミミズがいるから人間の領域が荒廃するのではなく、人間が借り受けている領域の荒廃に向き合わないからミミズが暴れる。
鈴芽は廃墟となった自宅で在りし日の故郷の死を受け入れ、後ろ戸を閉め、作中最後の「行ってきます」を言う。これは鈴芽という一人の少女が自分の人生において掴み取った自分自身のための選択だ。言い切ると同時に、一旦エンドロールに入る流れが印象的だ。鈴芽と草太は震災後に場所を移して再建された織笠駅で再会を誓う。そして現在の故郷となった九州で鈴芽は草太に「おかえり」を言い、本当のラストシーンとエンドロールを迎える。
『すずめの戸締まり』の表層的でない内実のテーマは賛否分かれるものだろう。だが作中において、このテーマは強力に一貫している。そして誤解されて認められることが理解されて批判されることよりも素晴らしいとは、決して思わない。