メモ帳用ブログ

色々な雑記。

風立ちぬの「美しいところだけ 好きな人に見てもらったのね」は黒川夫人が菜穂子の気高さに心を打たれているセリフだ。
黒川夫人は菜穂子よりも年上で古いタイプのご婦人だ。優しいが気難しく不器用な夫もよく立てている。だから黒川夫人には同じく古い女である菜穂子の気高さも、エゴも、そうせざるを得ない心情もよく理解できる。黒川夫人は菜穂子の決意を尊重し、菜穂子を追おうとする加代を引き止めた。
一方、加代は菜穂子よりも年下で新しい生き方を選んでいる女性だ。加代にも菜穂子の気持ちが全く理解できないわけではない。しかしそれ以上に菜穂子の決意を悲しく思う気持ちが勝ってしまう。
受け手は黒川夫人の認識が作品として正しいことは理解できるし、共感することもできる。しかしどうしても現代的感覚としては菜穂子と黒川夫人に共感しきれない部分は残らざるを得ない。加代はそうした部分の受け皿になってくれる。菜穂子は自分自身にとっての最善の選択をしたのだろうが、だからこそ受け手の目には悲しく写る。たとえそれが過去の病人を現代の健康な人間が遠くから哀れに思っているのだとしても。親しくなった相手の宿命を真心から悲しんで泣ける加代の姿は、そんな受け手の気持ちを、一段と高い場所へ昇華してくれるようだ。