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エヴァンゲリオンシリーズのキール・ローレンツに相当する企画段階ではコンラート・ローレンツという名前だった。
コンラート・ローレンツは近代動物行動学の草分けの一人だ。1973年にノーベル生理学・医学賞を受賞している。戦時中ナチス政権にすり寄った論文を発表した点は非難されているが、当時の情勢を考えればやむを得ない部分はある。
コンラート・ローレンツは間違いなく近代動物行動学の権威ではあるが、発表した学説の中には現在では否定されているものも少なくない。その中の1つに動物と人間の攻撃性に関するものがある。その説では、動物にとって攻撃性とは進化のために必要なものではあるが、種内攻撃で相手を死に至らしめることは種にとって有害であるため、同種に対する致死的な攻撃を抑制する種々の機能が発達してきた、とされている。同種を殺害する残虐な動物はヒトだけであり、ヒトには種の保存の本能が欠けている、ともある。しかし現在は同種を殺害する動物は人間だけではないことが判明している。哺乳類では同種殺しを行わない種のほうが多いが、ヒトだけが例外なのではない。同じ集団の同種は殺害しないが違う集団の同種は殺害する種は少なくない。コンラート・ローレンツが前提としていた種の保存の本能が存在しないことも明らかになっている。存在するのはあくまで自らの遺伝子を存続させる本能だとするのが現代的な考え方だ。進化を目的論的に捉えすぎている点も現代的ではない。
ただ科学的な妥当性はともかくとして、動物は同種で殺し合わず人間だけが同種で殺し合う不完全な動物だ、という説に影響を受けた思想や運動はそれなりにある。一部の自然保護運動はまさにそうした主張を旗印にしている。イルカやクジラは同種では殺し合わないという誤解(近年子殺しが観察されている)を広める団体も多い。エヴァンゲリオンシリーズのキール・ローレンツ(コンラート・ローレンツ)もそうした思想を持つ人物として設定されていたのではないかと思う。同種で殺し合うヒトの不完全性に絶望したキール・ローレンツはそれを克服すべく人類補完計画に加わった、という背景を想像することも可能だ。