メモ帳用ブログ

色々な雑記。

『戦争における「人殺し」の心理学』は戦争で兵士の背負う心理的負担の大きさを題材にした本だが、だから戦争は止めようという方向の内容ではなく、だから避けられない戦争での兵士の負担を軽減するためにできる限りの手を打とうという内容だ。アメリカ合衆国の元軍人で現軍事学者の書く本としてこの方向性は適切だ。

本のなかでは戦友を亡くす罪悪感はすべての人間に避けがたいものとする一方、敵を殺害する罪悪感については素質や訓練、作戦、戦闘後のケア次第で軽減可能だとしている。そのために国家や軍隊はできる限りの手段を講じるべきだという。ベトナム戦争で帰還兵がアメリカ国民から疎まれたために深刻なPTSDに陥った点も重要視している。戦争の正義の真偽など実際に戦う兵士に背負わせるものではなく、それを背負うべきは国家や軍隊であり、命令を守り命がけで戦った兵士には誇りと労りを与えなくてはならない。

他方、兵士の攻撃性は指揮官などの権威者によって完全に制御されなくてはならないことも繰り返し述べられている。兵士の暴走による虐殺も、指揮官の暴走による虐殺ももってのほかだ。ともに攻撃性の高い狼と犬を分けるものは社会の同胞に対する愛の有無とされる。社会性の有無であり、攻撃対象の見極めで適切な判断を下せる能力の有無だ。狼に牙を向けない牧羊犬と同じく、牙を剥く対象を誤った牧羊犬も処分されなくてはならない。

犬は主人のために攻撃性を発揮することで社会に存在できる。だから主人が適切でない野犬、すなわちギャングの構成員や攻撃的な軍隊の兵士は不幸だ。

判断を誤ることもあるが概ね国家の正義が揺らがなかったアメリカ軍のために書かれた本としてこうした姿勢は正しい。しかし国家の正義そのものが一度破綻した日本で描かれた『ゴールデンカムイ』はこの本とはやや姿勢が異なる部分がある。