メモ帳用ブログ

色々な雑記。

兵士の学習性無気力・学習性無力感とその予防接種について語っている箇所もあった。月島と鯉登の違いを考える上で重要だ。

学習性無力感とはこういうことだ。

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しかし、学習性無気力に陥る前に逃げ道を与えられた犬は、いつかは逃げられるものだと学習する。つまり一度でも逃げられる経験をすると、学習性無気力に対する予防接種を受けたことになるのである。こういう犬は、その後長期にわたって不規則で不可避のショックを与えられても、しまいに逃げ道を与えれば逃げることができる。

非常に興味深い理論だが、ここで重要なのは、この予防接種のプロセスとまったく同じことを行っている場所があるということだ。それは基礎訓練キャンプ、そして名実あいともなう軍人養成校である。

(中略)

このように意図的に生み出された軽蔑やあからさまな身体的攻撃に直面し、その状況を乗り越えて胸をはって卒業する新兵は、意識的にも無意識的にも、むきだしの対人的な攻撃に耐えられるようになった自分に気づく。

(p. 155-156)

月島は死刑囚となった後、自分が有能でロシア語能力も身に付けられたから死刑を免れてたのだと考えていた。自分で自分の逃げ道を切り開けたのだから、学習性無力感に対する予防接種は済ませていたはずだった。しかし鶴見から実は鶴見の裏工作によって死刑を免れたに過ぎないと暴露される。事実関係を確認しないままに父親を撲殺して自らの未来を閉ざしてしまった攻撃性も、事実関係を確認しないままに鶴見を殴るという最悪の流れで再び思い知らされる。これによって月島は自分が自力で未来を切り開くことなどできず、鶴見に縋るしかないという学習性無力感に陥った。後に月島は鶴見のこうした策略に気が付き、「私を救うのにどれほど労力を費やしたか訴えるわけです」と鯉登に語った。それでも鶴見の元を離れる気にはならなかった。学習性無力感の典型的な症状だ。鶴見はこうなることをわかっていて一度は偽りの予防接種を与えたのだからなおさらにむごい。

一方、鯉登は鶴見の策略が一部失敗したために自分で自分の道を切り開いてしまった。自分を誘拐した犯人に死ぬつもりで抵抗したところ、すれ違ってしまっていたが偽りなく鯉登を愛していた父親が救出にやってきてくれた。持て余すばかりだった自分の攻撃性も、誘拐犯に立ち向かうために発揮できたことで父親から褒めてもらえた。「無事やったか 音之進 よう戦たな… 誇らしかど」と言ってもらえた。これにより鯉登は自分の未来は自分が戦うことによって掴み取れるのだと学習した。海軍兵学校から陸軍士官学校への進路変更を成功させたのも自分の力だ。鶴見の策略が月島により暴露された後も、自力で切り開いた道そのものが汚されることはなかった。