メモ帳用ブログ

色々な雑記。

八雲立つ読み直して、ついでに続編の八雲立つ灼も読んだ。灼はここから長丁場になりそうだな。この先は完結してから評判が良かったら追いかけようか。
とりあえず、八雲立つに関しては、前半傑作で後半グダって、最終回が「え?」だったリアルタイムの感想そのままだった。「はあ?」ではないけど「え?」。
たぶん、最終回の内容は連載開始時から決まっていたんだろうけど、序盤〜中盤の出来が良すぎて作者の想定していない方向に受け手の期待が膨らんでしまったパターンだ。


闇己も七地も女の子とくっつかなかったけど、八雲立つなら文句なくブロマンスの範囲には収まっていたと思う。灼も一応ブロマンスだけど、「え?」な部分をそのまま引き継いでいて、2人でまた心霊現象に立ち向かうとか2人で同居するとかの読者サービスを含めた基本設定のセットアップの過程に無理がありすぎたり、そのために周りの人間が不幸な目にあってたりするから、話の基盤が「なんかなー」な感じ。ただ、エピソードごと話のクオリティはしっかりしている。特に海榴の話や七地の同僚教師の話は好きだ。海榴とキャラ傾向の近い安柘も好きだったな。
八雲立つで一番好きな話は海神を抱く女で、そこがストーリー全体の面白さのピークでもあったと思う。それからしばらくは、最近面白さが落ちているけどここで貯めて後でグッと跳ねるのかなと思っていたら、そのままズルズル落ちていった。まともに先の展開に期待できていたのは忌部弟と仲良くなるくらいまで。
闇己と七地、闇己と海潮、七地と楠の関係は相当グダグダ引っ張っていたけど、まあ自分好みに決着したからここは個人的にはA評価。客観的にはB評価かも。七地が一番好きなキャラだ。
「お父さんの首の後ろ真っ赤」の回想は泣けたし、引っ張った分、闇己が立ち直った時はカタルシスがあった。ああいう思い出があるから闇己は寧子を自分の姉として見捨てられないってのも納得できる。
しをりが七地とくっつかなかったのもむしろ良いと思う。あのままだとしをりは独占欲の強すぎるメンヘラ束縛彼女から脱却できなかった。可哀想な境遇の子はメンヘラになりがちだけど、メンヘラなままだと自分だけじゃなくて周りも巻き込んで破滅するからどこかで克服しないと。世裡が海潮を父親のようにしか好きになれなかったように、闇己が七地に父親を重ねたように、父無し子で「子供」であるしをりも実は七地と「家族」になりたかっただけだったというのは悪くない落とし所。七地と脩の優しさはしをりに立ち直る力を与えた。その優しさに触れられたのは眞前と楠に利用されたためで、最後は眞前が突き放してくれたおかげでしをりはとうとう自分の力で立ち上がった、というのも善悪が一筋縄ではいかないこの作品を表していて良い。しをりはいかにも好き嫌いが分かれそうなキャラだけど、自分はああいう境遇の子供の不安定さがうまく描けていて可愛いと思う。それだけに闇己が七地にかけた電話にあんな対応をした時は色んな意味でヒヤヒヤした。でもちゃんと前向きになれてよかった。
安柘は闇己に惚れていたし闇己は安柘に友人として好感を持っていたって部分はストーリーに特に影響を及ぼさなかった。でも闇己が生きていれば違った未来はあったかもしれないのにと想像して悲劇性を高めるのには悪くないスパイスだ。まあその悲劇は茶番というか、なんというか。
灼はファン層的に闇己はフリーで終わるんだろうけど、海榴か友利奈との未来に期待を持っていい感じだと嬉しい。
いつもの自分なら人間関係さえ良く出来ていればそれで作品もAでいいやなんだけど、八雲立つの前半はそれ以外の部分も本当にAだっただけに惜しい。神話と各エピソードの絡め方が鳥肌ものだった。話運びは前半がA、後半がB、クライマックスがC。
クライマックスは闇己の自己犠牲は構想通りだとしても、集めた神剣や集結したシャーマンの活躍するシーンはもっと見たかった。瞬殺されると今までの話が無駄じゃないか感がストレートに出てしまう。激闘、しかし絶体絶命の危機、そこで闇己が…って流れならマシだったかな。
最終回の何が特に「え?」かって、夕香と蒿の息子の正体が転生した闇己だったところだ。
海潮が何の負の感情も抱かずに死んだことを確信した闇己は自分も何の負の感情も抱かずに自己犠牲する、七地はそれが最初から確信できているからこそ辛く、ようやく闇己の痛みを本当の意味で理解できる、そんな闇己だったからこそマナシから二度目の生を受け取れた、というストーリーの理屈はわかる。でも人間の父親と母親から生まれてきた子どもが、実はそのまんま闇己のコピーだったってのは正直気持ち悪い。その父親と母親が蒿と夕香なのは余計に可哀想なような、事情をよく知っているからまだマシなような、闇己にも晃己にも深い愛情があったから余計に苦しいような。複雑。
灼も家族関係ではグダグダしてて、蒿と夕香が可哀想だからどうにかなってほしいけど、正直面白くないパートだ。
八雲立つの布椎家の因縁パートは引っ張り過ぎたのはともかく、題材には惹きつけられた。寧子も同情したり応援したりする必要がないからある意味見るのが楽なキャラだったし、眞前も第一印象のインパクトの割には大した暗躍をしなかったけど、いいキャラした悪役だった。終盤、抱いた女には少し甘いってのがわかった時はちょっと見直したような、ちょっとガッカリしたような。灼で、まだ子供だけど特に好きでもなんでもない蘇嶋のことは平気で支配したり破滅させようとしたりしてるのはらしくて良かった。蘇嶋が「兄」だったまーくんを憎んでいるけど嫌いきれないというのも良い。
眞前の言っていた、自分は兄貴に嫌われていたから嫌いな人間から好かれる気持ち悪さを味わわせないために兄貴を嫌ってやった、というセリフは嘘ではないはずだ。ただ、正解でもないんだと自分は思う。
海潮は眞前と性質の似ている闇己は心から可愛がっていた。それでもああいう人間が自分の実の弟だったら、若い頃の海潮は色々と複雑な気持ちを抱いただろう。それに反応した眞前が海潮と距離を置いたり、海潮を嫌ったり、余計にグレたりした面はあったはずだ。だが海潮は自分の苦手な不良の弟が、自分の妻を寝取ってつくった、弟そっくりの闇己に愛情を注いだ。己の心の邪に勝てと言い残した。自分がちゃんと愛してやれなかったから弟をグレさせてしまったという後悔を海潮は持っていたのかもしれない。だからなおのこと闇己は息子として愛そうと思い、そうできたのかもしれない。少なくとも眞前への復讐のためではないだろう。