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新海監督のティーチインによれば、織笠駅で草太と鈴芽が


抱き合うシーンは秒速5センチメートルの駅で別れるシーンを意識しているそうだ。
まず秒速5センチメートルの「大丈夫」を語りなおす意味があるという。
そして草太が先に抱きしめて鈴芽が先に手を回す点を意識してほしいとのことだ。出遅れてドアに阻まれ、触れ合えなかった秒速5センチメートルの2人とは違う。君の名は。秒速5センチメートルのシーンがセルフオマージュされ、だが結末が正反対になったのと同じ意味合いのシーンではないだろうか。
新海監督は、天気の子の帆高と陽菜の強い絆を語りつつも、この作品はラブストーリーではなく2人が付き合ったとしても上手くいくとは思えない、と容赦なく言ってしまう監督だ。しかし鈴芽と草太の声優が2人はいい夫婦になるのではと言った際には、確かにそういう未来があっても美しい、とどちらかと言えば肯定的な返答をしている。


鈴芽は「好きな人のところ!」と言うまでは自らの恋愛感情を認めていなかった。ずっと無自覚だった。
鈴芽は草太に一目で惹きつけられ、戦友として絆を深めた。だが性を感じさせないほど美しく、すぐに生身を失って椅子になった草太は、鈴芽の中でどこか恋愛対象として直視しがたい存在だった。だから気軽にキスできたし、上に座れたし、踏み台にもできた。
だが草太から見た鈴芽は生身で年頃の少女以外の何者でもない。特段生々しい感情を抱いた様子は見られないが、すでに分別ある大人の仲間入りをしている草太は生身の少女である鈴芽に対してそれにふさわしい接し方をした。他方、椅子になってしまった自分を守ってくれ、只人なのに戦友になってくれた鈴芽という人間に対する好意は並々ならぬものになったようだ。新海監督は、草太は鈴芽を「眩しく」感じたのではないかと語っている。
とはいえ、いくら清らかな草太だっていつもは生身の若者だ。椅子の姿とはいえ鈴芽に座られてしまった時になんとも言えない反応をしている。双子に続いて鈴芽が自分に座って遊ぼうとした時に断ったのだって、ただ重いからではないだろう。その点をわかっていない鈴芽は断られたリベンジとばかりに気軽に草太に座ってしまうのだが。
草太は常世でミミズを封じた後で倒れた鈴芽を起こす際にも、身体的接触を指で軽く触れる程度に留めている。あるべき距離感を踏まえた振る舞いをしている。それを考えると、織笠駅での別れ際に鈴芽を抱きしめた時は本当に万感胸に迫って柄にもない行動に出てしまったのだろう。小説版では駅での鈴芽の切ない心情が綴られているが、草太もそれに勝るとも劣らない強い思いに突き動かされたはずだ。
草太は気軽に鈴芽を東京や九州まで送らなかったし、2月になって戸締まりを一通り終えるまで鈴芽と再会しなかった。その点もそれだけのケジメと覚悟をもって、閉じ師という仕事にも鈴芽にも向き合いたいと決意したためだと考えるべきだ。ただ草太にとって鈴芽が人間として最も大切な相手になっていたのは間違いないにしろ、新海監督の言うように恋愛感情がどの程度含まれているのかはやや不明瞭な部分はある。