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色々な雑記。

環本はタイトルが


『怖い夢を、あなたがもう見ませんように 〜環さんのものがたり〜』となっている。
環の鈴芽に対するものも含めてドロドロした感情も描く内容だけに、タイトルで総じて鈴芽に対する愛情が題材だと示しているのが親切だ。
そして表紙に使われているアニメのカットも気が利いている。環の小説なら環の映る場面を選択するのが普通だろう。しかし採用されているのは環の全く映っていない鈴芽が幼いすずめに椅子を渡している場面だ。環本で直接的には言及されているシーンでもない。
だがこのシーンで鈴芽は母親への思いに区切りをつける。
鈴芽は環本で描かれる幼い頃も、映画の冒頭でも、母親の夢を見て泣いていた。正確に言えば母親と再会できなかった夢を。
だから母親への思いを整理したあの場面以降、鈴芽が怖い夢を見て泣くことはなくなったはずだ。環の願いは叶ったのだ。
環本で綴られる環の姉・椿芽に対する感情には複雑なものがある。唯一の肉親としての親愛があることはいうまでもなく、その眩しさに若い頃は劣等感を感じてしまい、そのために大学は地元と離れた場所を選んだことも明かされている。
何より、環が決定的に椿芽へ対抗意識を燃やすようになったのは鈴芽を引き取ってからだ。環は鈴芽の家族になろうとした。たとえ母親を塗り替えることはできなくとも、同等の家族になれるとは思っていた。しかし鈴芽が行儀よく明るく振る舞っていたのはここがよそのおうちだからであることに、環は気づいてしまう。鈴芽は夜中に起き出して泣き、環のプレゼントした大きな熊のぬいぐるみではなく、お母さんの黄色い椅子を抱いていた。そして「まだ、おうちに帰っちゃだめ?」と言った。
身勝手な言い分になるが、自分の人生から犠牲を払って鈴芽を引き取ったのに、という気持ちだって当然湧いてしまったはずだ。
環は嗚咽し、鈴芽もつられて泣いた。そのうちに二人は当たり前の家族になった。
鈴芽を産んで4歳まで育てたのは椿芽でも、それから12年間鈴芽を育てたのは環だ。生きた人間として鈴芽の手を引いてきたのは環だ。環は鈴芽を育てる中で、母を想う娘をなだめる中で、帰ってこない姉はもう本当に帰ってこないのだと噛みしめるしかなかった。
だから鈴芽が突然家を出て、あの椅子に連れて行かれたのではないかと思いついた時、環は鈴芽があの椅子の繋がっているあの世に奪われたのではないかと感じたのだ。そして負けないと決意した。