メモ帳用ブログ

色々な雑記。

H2の「計算違いだよ」から「ウソつけ」まで

計算違いだよ

英雄との対決で4球中2球謎の球を投げる比呂。野田もその2球を捕逸してしまう。キョトンとした顔のまますかさず一塁を踏んでおく英雄と珍しくバタバタしている野田が面白い。振り逃げで一死満塁となるが、千川は比呂の連続奪三振でピンチを脱出。ここは週刊少年サンデー本誌だと振り逃げのルール誤認をしていて単行本で修正しているそうだ。細かいミスはギャグで流すあだち漫画だけど、公式戦のシリアスな場面でのルールミスはさすがにまずかったのか。自分はサンデーは単行本派でジャンプは本誌派というマイルールがあったせいで直接は見ていない。

明和一の稲川監督による前回の2つの四球と比呂の凄さの解説。前回引きに使った要素をちゃんとすぐに解説してくれるのがありがたい。

比呂のあの球は英雄にも見たことがない球。正体は高速スライダー。いわゆる魔球的なものを、あだち漫画のリアリティで描くにはいい塩梅。

相変わらずエスパーめいた比呂のひかり発見力。

おっしゃるとおり

好きな扉絵だ。あだち先生が直接書いた部分は幼い比呂とひかりの輪郭線くらいな省エネだろうだけど、とにかく構図が決まっている。

読者にも内緒のうちに比呂と野田で練習していたスライダー。2人が古賀監督に語った内容は第321話「わかってんだろ」の前振りときちんと一致している。比呂がスライダーで英雄との勝負を避けたことを意外だという古賀監督に、比呂は割りに合わないと正論を返す。頼もしいとは言いつつ汗をかいて戸惑うあたり、古賀監督も比呂の様子がいつもと違うと感じているようだ。英雄とひかりの関係がこの試合にかかっていなかったら、たぶん比呂は多少危険でも英雄と全打席真っ向勝負したかったはず。

この試合で漫画としてクローズアップされるのは比呂vs英雄。明和一の選手は全員クローズアップされるわけではないけど、チーム全員で比呂にプレッシャーをかけていることを稲川監督が語る。野球は1対1でなく9対9だ。千川も比呂がバックの佐川に声をかけてヒマなのはここまでと伝える。佐川も英雄との因縁は深いんだけど、下手に触れると収集がつかなくなるせいか潔く全カット。

空気を読めないのか読まないようにしているのか、比呂にタッチネタをふる春華。比呂の「古賀。 勝たせてくれよな、この試合……」は解釈が難しいセリフ。第297話「だからいったろ」では半ば以上励ましのためとはいえ春華に「古賀春華がいてくれたから── がんばれるんだよ。」と言っていた比呂。それがこの試合では他の人の彼女である雨宮ひかりのために戦っている。勝って、万一ひかりが英雄を振っても自分が選ばれるとは思っていなかったはず。それでも、現在ガールフレンドの春華に何も事情を伝えないままそばにいてもらっているのは、許可を求めるのに近いような懇願めいた言葉をこぼしたくなるくらい後ろめたかったのかも。

雨宮ひかりの応援だよ

記者席を離れてひかりの応援に来たひかりの叔父。「どっちが勝つと思う?」と核心に触れる話題をふるが、ひかりは「ここは明和一の応援席です。」と切り返す。まだ冷静。

体力を精一杯使いながらも三塁に辿り着く比呂。三塁手・英雄との挑発の応酬はピリピリしていていい感じ。

男だねえ、橘 英雄

扉絵のH2と書かれた掲示板は、サンデー本誌では第324話「計算違いだよ」のミスと単行本での修正の告知が書かれていたそう。

サインをコロコロ変える頼りない古賀監督の期待に応え、球の落ちた場所の良さも手伝い、見事ヒットを打つ佐川。比呂が生還し先制点は千川に。ここで鈍足のランナーな野田がオーバーランしてアウトを食らってしまうのはあだち漫画では定番の展開。比呂が疲弊したまますぐに三死でピンチ。

この局面でトップバッターは英雄。間を取れるだけ取って比呂にひと呼吸置かせてから勝負に挑もうとするのは律儀な英雄らしい。

真っ向勝負を挑みたい英雄の心遣いに対しスローボールで応える比呂。よくこれだけスローボールを恐ろしく演出できるもんだ。半ばホラーの領域。それに続く2球のスローボールもスローなのにというかスローだからこそなのか息の詰まるような緊張感。あまりに意外な比呂のプレイに驚く英雄と稲川監督。

人それぞれ

比呂が自分で配球を組み立てていることを野田に確認し、比呂らしくないプレイの原因は自分がひかりに言ったことを知ってしまったせいだと悟る英雄。あだち漫画のキャラは基本察しが良い。

お久しぶりの広田本人の登場。しおらしい言葉には嬉しい反面寂しくなる思いも。広田が右耳のイヤホンで甲子園の実況中継を聞いていることに最後まで読者が気が付かないように配置されたコマ割り。そのコマの前からケーブルはさり気なく描いてあるのが憎い。

守備でも活躍する英雄。千川の攻撃陣を実況で褒めつつ、それでも英雄がその上をいったというかたちになっているのが良い。実況と会話が成立する謎のギャグ。シリアスな場面でギャグを混ぜてもテンポが崩れないというか、むしろギャグによってテンポが一定に保たれているというか。好きなものは人それぞれという話題から、野田は初恋の遅れが現状を招いた比呂へフォローするつもりで、好きになる時期も人それぞれと言う。その軽口へ若干ムキになって球を返すをするあたり、やっぱり比呂は張り詰め気味。比呂の様子がいつもとは違うことは稲川監督も確信する。

三球来ました

裏の裏をかく野田のリード。中学生の時から比呂にとってだけでなく英雄にとっても野田の存在が大きかったことの確認。3人の友情とひかりの関係のバランスが良い。もし野田がいなくて完全な三角関係だったら、英雄と比呂の関係は救いがない拗れ方をしていそう。

比呂の張り詰めた糸を切りたい稲川監督。結局は切れずに終わるけど、もし切れていたら比呂は立て直せなかっただろう。

昨日は木根のおかげで休めたのに疲れている比呂。春華に「がんばれ。負けるな。」と励まされ、昨日同じ言葉でひかりに励ましてもらったことが頭をよぎる。ガールフレンドの春華に何も言わず、形の上ではひかりを賭けて戦っている比呂の心中は相当に複雑そう。

「ひかりちゃんは…… 橘 英雄のどこにホレたんだい?」とひかりに尋ねる叔父。答えは、この後の比呂によれば「融通の利かねえバカ正直さ」。英雄が融通の利かない人間であることは、千川と明和一が初めて戦った練習試合の第37話「今度は外れじゃないわよ」でもひかりが語っている。真面目さ・真剣さと言えば普通に長所になるのに、わざわざ短所的な表現をしてそれが好きなところというのが皮肉が利いている。短所になりうることをひっくるめて好きだということなのかな。

ウソつけ

試合中の英雄の真剣な眼差しを見ながら英雄にホレた理由に思いを巡らすひかり。比呂のチームメイトという縁から知り合った中学生の英雄の回想。練習風景では、あどけなさの残る顔立ちと真っ直ぐな眼差しが眩しい。続いてデートの様子。雨宮ひかりの初恋の男としての橘英雄の魅力の伝わる描き方。最後のコマの汗のつたい方とかいちいち気が配られている。

好プレーの続く千川対明和一。野田はノーヒット狙いとかのよけいなことを考え出されて比呂の糸が張り詰めすぎるよりは、適当なヒットを打ってもらって緩めたい。意味はズレるけど、よけいなことの最たるものであるひかりがどちらを選ぶかという話題を持ち出す比呂。比呂は野田にもひかりの件では悪役を演じているし、それだけでなく実際不安になったり揺らいだりした面もあると思う。

余力の残り少ない比呂のためにホームランを打つ野田。これで比呂と英雄の勝負は後2回でほぼ決まり。最後の勝負に向けて読者の関心を集中させる。