メモ帳用ブログ

色々な雑記。

あだち漫画は意外とスッキリしきらない部分を残す展開が多い。

タッチだと、佐々木は由加の気持ちを勝手に忖度して南の下拵えした料理の材料を処分してしまうし、真相は最後まで誰にもバレないまま。ただしバレないままエピソードが終わることを前提に、処分した瞬間は察せばわかる程度の描写に留めて悪い衝撃が後を引かないようにしてある。佐々木のせいで起きた南と由加の口論も穏便に終わる。むしろ口論によって一度は南に強く反発したけど自分から南のメモを受け入れることを選んだ由加の変化が引き立っている。佐々木の勝手な行動はヒロインたちに泥を被せず2人の衝突を起こすためにうまく機能している。

由加は気が強くてお調子者な分、口が悪い。同じ野球部の仲間はともかく、敵校の選手、特に西村には気軽に笑顔で悪口を言ったりする。でも大抵すぐに達也から直接的に強いツッコミが入るし、由加は達也より喧嘩が強いような女の子で全然ダメージを受けないから、全体的にギャグとしてうまくバランスが取れている。

柏葉英一郎や野球部の先輩たちは作中で柏葉英二郎に謝ったり過去を償おうとはしなかったし、最終話後だってそのままだろう。柏葉英一郎はあの奥さんと子供がいて、社会的にも成功している。先輩たちもおそらくみんな普通に幸せになっている。彼らは人並みのろくでもない過去と人並みの悪意を抱えたまま、人並みに幸せな生活を続けていくんだろう。それでも周りの人間は何も変わってくれなくても、柏葉英二郎は自分の過去にケリをつけた。「夏は好きなんですよ。」と言うことができた。

あだち漫画は現実にもある悪意をオブラートに包んで飲み込んで生きていく漫画だ。そういう夢の見方をする漫画だ。露悪とは正反対だし、最初から世界の悪意を取り除いておく作風とも違う。ただし結局はすべて漫画という夢の見方の違いとも言える。誰も彼もが主人公のように理不尽を飲み込んで背筋を伸ばしていけるなんて夢物語だし、理不尽と正面切って戦えば勝てると信じるのだって夢物語だ。悪意のない世界なんて夢そのものだ。それでも寝ながら見る夢が生きることには欠かせないように、起きながら見る夢だって人生には必要なものだとも思う。