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色々な雑記。

鶴見のサイコ(からの脱却)よりの解釈。修正。

第309話で雑誌版だとただの独り言に見えた鶴見の呟きが、単行本版だと誰かに語りかけているような口調に変更されている。

具体的には「なぜかって?」というセリフが追加されている。だが鶴見と会話できる状態の人間は見当たらない。実は、セリフの言い終わりで鶴見は左胸に手を当てており、第313話で左胸の内ポケットには妻子の遺骨が入っていたことが明かされる。だからこの時鶴見が語りかけている相手は遺骨である妻子だ。

鶴見がこの状況で遺骨に語りかける人間であることを踏まえると、鶴見の顔の向きの修正も意味深だ。鶴見の顔は雑誌版では正面を向いていた。それが単行本版では一両目の室内の方に向いており、そこで転がっている部下たちの惨状がコマを分けて描写されている。鶴見は高飛びの計画を喋りながら、瀕死や死体の部下たちを見つめている。向かおうとしている機関室の方を見ているのでもない。

鶴見はかつて宇佐美の死に際に小指を食いちぎり「これで私たちは一緒らすけ 時重くんは私の中で一番のひととして生き続けんだれ」と語りかけた。「一番のひと」はお世辞だが、それ以外は本気だったのかもしれない。そしてこれが鶴見にとっての真の同行者、「道連れ」なのかもしれない。鶴見はフィーナもオリガも、日露戦争で亡くなった戦友たちも、宇佐美も、五稜郭や列車で死んでいった部下たちも、みんな自分の道連れのつもりでいた。だが道連れになるかどうかを確かめた鯉登からはついていけない苦しみを吐露され、月島をまさに道連れにしようとした際は鯉登に月島はもうついていけないのだから解放してくれと真っ当なことを言われて阻止されてしまった。尾形は自分の元から逃げたにも関わらず戻ってきて、自分の期待通りに死んでくれた。

だが満足感を得たことでむしろ我に返ってしまったのではないか。

自分がかつて手塩にかけて愛を捧げさせた4人はもうだれ一人自分の味方として働いてくれない。そのことを実感した鶴見はこれまでの過ちを悟った。だから「道連れには出来ん」とせめて列車の連結を外した。それまでは自分の死亡を偽装して満州に高飛びしやすくるためにも、自分の道連れを増やすためにも、尾形が企んだのと同じく列車事故で部下たちを全滅させてしまうつもりだったのではないか。

すでに人でなしの鶴見ではあるが、本当の死神にまでは落ちずにすんだのかもしれない。また、部下たちを道連れにする過ちに気付いたのだから、もう自分からは生き残った部下たちと接触しようとすることもないだろう。