メモ帳用ブログ

色々な雑記。

前書いたことに家族という視点を入れて整理。
「私たち第七師団は家族同然です」と鶴見は有古の父親に語った。
もちろん有古の父親に他のアイヌの情報を密告させるための口車だ。この後「戦地へ行けば互いに命をかけて助けあうでしょう もちろん力松くんに対してもです 家族同然に心からの信頼が力松くんにあれば…」と続けており、父親が日本を裏切れば戦地で息子の命が危うくなることを暗に伝えている。しかし家族という言葉は、鶴見にとって全くの嘘ではなかっただろう。鶴見は家族が一体であるように、自分の部下たちとも一体でありたかったように見える。離れたがった人間は利用し続けることで、あるいは殺すことで、手元に留めようとした。父親が子供を手元に置きたがるように。少なくとも部下を駒だと考えているという宇佐美の決めつけよりは実態に近いはずだ。あるいは宇佐美は、鶴見を男として意識する者として、我が子のように可愛がられるくらいなら駒のように他人でいたかったのかもしれない。
鶴見から自力で逃げきった者は皆鶴見以上に大切な家族を持っていた。
谷垣はアシㇼパやフチ、杉元たちと家族同然の仲になり、インカラマッと将来を誓い合ったことで、鶴見陣営の兵士をやめてマタギに戻る決心をした。鯉登と月島から見逃され、妻子ともども鶴見の手を振り切った。鶴見ももう谷垣が自分の手元には残らないとわかっているからこそ殺さなかったのかもしれない。有古が父親の遺志を継いで鶴見を裏切ろうとした際も、鶴見は人質と暴力を使っていた。血族との絆を利用して自分の元に拘束した時点で、有古にとってはそちらの家族のほうが自分たち第七師団よりも大切だと認めているが、それでも鶴見と有古の繋がりは残った。有古を脅そうとしている鶴見の目は真っ黒に塗りつぶされていた。カリスマ性を維持するための仮面として顔面全てが真っ黒に塗りつぶされている時とも違う。この顔が、死者の魂を収穫する死神としての鶴見の顔なのだろうか。
鶴見は列車で相手もいないはずなのに突然会話を始めたことがあった。一旦満州に高飛びするが、権利書を使って力を蓄え、また北海道に戻ってくるのだと。後の場面で鶴見の左胸部の内ポケットには妻子の骨が隠されていたことが判明している。だからこの時鶴見はおそらく妻子に話しかけていた。だがそれだけではなく、目の前の死にゆく部下たち、死者として死神である自分と同行することになる部下たちにも、今後の予定を説明していたのではないか。
鶴見の目は、五稜郭で無意識に鯉登について行こうとした月島を引き留めた時も、列車で月島に自分の手を取らせようとした時も、真っ黒に塗りつぶされていた。五稜郭のあの建物にわざと鯉登を連れていくことで手元に留めようとした時も、鶴見の目は真っ黒だった。そして鯉登が自らの意志で鶴見に歯向かった途端、鶴見の顔はただの不機嫌な人間の顔に戻った。鯉登は嘘で導かれたとはいえ、この道は自分で選んだ。だから自分がどうなろうと受け入れる。だが部下たちを守るためならあなたの首を中央に差し出さざるを得ないと、鶴見に迫った。かつて鯉登は月島に「同胞のために身命を賭して戦う」ことが「軍人の本懐」だと語りかけていた。鶴見の「私たち第七師団は家族同然です 戦地へ行けば互いに命をかけて助けあうでしょう」という言葉も単なる嘘ではなかったが、鯉登のこの言葉は正真正銘何の駆け引きもない本心だ。そして同胞とは本来きょうだいを意味する。鯉登はともに鶴見の息子であり自分の兄である部下たちを守るために、自分たちの父親である鶴見に離別を告げた。