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囚人たちの暴動鎮圧を名目にする以上、たとえ門倉が牢を解錠せずとも看守だけでなく囚人も皆殺しにすることは最初から決まり切っている。月島はつい甘っちょろい確認をしてしまったが、鯉登も宇佐美も網走監獄襲撃計画なんてものに参加した時から敵は誰一人生かして帰せない性質の作戦であることはわかっていたはずだ。わかっていて当然だ。
それはもちろん鯉登平二もだ。
鯉登平二は大湊水雷団を率いて鶴見勢力を網走監獄まで送り届けただけでなく、監獄に何発も砲撃を加えている。鯉登平二とその部下たちはこの時点で立派な鶴見勢力の共犯者だ。鯉登平二は鯉登音之進と同じく鶴見が部下たちに語っていた建前を信じてしまい、クーデター計画に賛同したのだろう。親友である花沢幸次郎が自刃した上にその責任を部下の第七師団に押し付けられて中央に不信を抱いていた鯉登平二には、中央を打倒し第七師団の待遇向上を目指す鶴見の計画に加わる動機があった。鯉登平二は鶴見とともに軍事政権を樹立することで親友の遺した部下を救い、日本をより良くしようと考えていたのだろう。そしておそらくそのために覚悟をもって自らと、ついて来てくれた部下たちの手を血に染めたつもりだった。
網走監獄襲撃の直後、鶴見と協力関係になってからとはいえ、杉元は鯉登平二と会話し、その人柄を認めている。鯉登平二が語った「武人としての親の責任の取り方」もある程度は心に響いたようだ。網走監獄襲撃で囚人虐殺に加担したことを知っていようとも、杉元の目には鯉登平二は評価すべき武人として写った。これは杉元からすると、高名な武将も時としては比叡山焼き討ちなどの非道な行為に手を染めざるを得ないようなものなんだろうか。杉元も鶴見に勧誘されたり谷垣から事情を聞かされたりしてるから鶴見のご立派な建前が本物だと思い込んでるし。