メモ帳用ブログ

色々な雑記。

失恋で始まって新しい恋を見つけるエンタメは珍しくないけど、恋の素晴らしさを描いた後でそれが終わるラストを前向きに描く秒速5センチメートルを制作した新海監督は、やっぱり根を拗らせている。幼児的万能感からの卒業というように考えるといかにも思春期やそれを引きずっている人間向けのテーマだけど。
すずめの戸締まりはサブテーマの恋愛については本当に前向きな感じで終わるし、メインテーマの1つについては最初から扉を締めて無限の可能性を諦めることだと提示しているので昔よりかなり親切。死の実感というテーマも思春期的といえばそう。


すずめの戸締まりのメインテーマの1つは鈴芽が母と故郷の死を本当の意味で受け入れて悼めるようになることだ。鈴芽は母と死別した直後の4歳の頃から既に母が死んだことに気づいてはいたけど、ずっと受け入れられずに探し回っていた。そのまま環に引き取られたためにどこかで母との関係に区切りがつけられず、少し重すぎるくらいの愛を注いでくれる環との関係にもしっくりこない部分があった。災害の後で再会できたはずの母の夢を見て泣いてしまうこともあった。そんな中で閉じ師という土地を悼む家業をしている草太と出会う。草太は美しく、長い髪を持ち、どこか女性的でさえある青年だった。鈴芽は草太に代わって各地で土地を悼んだ。可能性の終わりと向き合った。そして母を喪いそれ自体が滅びた故郷に戻ってきた。死は怖くないと一見勇ましいようで捨て鉢だった鈴芽はクライマックスで死者の世界である常世に赴き、一度草太のために自らの命を捨てようとする。だが生と死が紙一重だとわかっているからこそ生きたいのだという思いを草太と共有し、鈴芽は草太と生きようとする。鈴芽は幼い自分が母と再会できた記憶は実は現在の自分と幼い自分が出会った際のものだったことを知る。やはり母は亡くなっており、魂と再会することさえ叶わなかった。だが鈴芽は幼い自分に自分は母を喪ってからもまっとうに大きくなれたことを伝え、母の死と自分のこれまでを受け入れた。鈴芽は草太に出会い草太に救われたというよりも、草太に出会って協力し、出会った人々と交流したことで、その助けを失った後も自分で自分を救えるようになったということなのだろう。母を喪った地に戻り、草太を救って、自らを救った。