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鈴芽はダイジンが


草太を要石から人間に戻していないうちから、後ろ戸を開けていたのでなく実は後ろ戸の場所に案内していたと知っただけで、もう許している。やはり、鈴芽は優しいのだ。
鈴芽はダイジンに「うちの子になる?」と聞いたことを忘れていた。自分の不用意な優しさがダイジンを惑わせたことに鈴芽は長い間気付いていなかった。だが、中盤以降鈴芽はダイジンに要石に戻ってと頼むことはなくなり、代わりに閉じ師でなくとも要石になれるのかとたずねるようになる。自分がダイジンの行動の一因となったことを自覚する以前から、鈴芽はダイジンのもう要石には戻りたくないという思いを理解し、それが変えられないのなら、草太を救うためには自分が要石になるしかないのだと思い定めた。
鈴芽は幼い頃に故郷が震災に襲われ、自身も被災し、母親を亡くした。だから目の前でもう災害は起きてほしくない、もう大切な人を失いたくないという思いは人一倍強い。ダイジンが災害を積極的に引き起こしていると勘違いし、「繰り返すねえ」などと言っているのを聞いているうちは、ダイジンに対する怒りもひとしおだっただろう。しかし実際はダイジンは災害を積極的に引き起こしてはいなかった。自分が要石でなくなれば災害が起きると知りつつも遊んでいたが、一応被害を食い止めることに協力はしていたし、恋敵の草太に要石の役割を押し付けて始末しようとはしたが、幼子の側面が強く気まぐれな神としては際立って悪質な行動というわけでもない。東京上空でミミズに草太を刺させようとしたのも、東京の人命一万を人質にしたというよりは、幼さのあまりに鈴芽の心情を思いやれなかったためだろう。ダイジンは鈴芽が草太を要石として自分の手で使ってしまえば、もう人間でないと自分の行動で実感すれば、どれだけ苦しむのかを想像できなかった。そして優しい鈴芽はダイジンがそうした存在であることを頭で考えずとも感覚的に理解し、実は無関係の人間を巻き込もうとまではしていなかったという一点のみで許した。今も自分に協力しようとしていることを素直に感謝できた。
鈴芽がそうした少女で、草太や自分の代わりに要石になろうとさえしたからこそ、ダイジンは鈴芽を諦めて要石に戻れた。鈴芽がダイジンに注いだ優しさは、鈴芽にとっては誰にでも注げる種類の優しさだった。ダイジンは鈴芽の子にはなれなかった。鈴芽の特別は草太だった。ダイジンを追う旅の中で特別になった。