メモ帳用ブログ

色々な雑記。

第266話で鶴見とアシㇼパ・ソフィアの会話を盗み聞きしながら月島はこう考えている。

「日本繁栄のため極東への領土拡大」は
『戦友たちが眠る土地を日本にする』という目的だったはず
鶴見中尉の本当の目的とは
まさか…
「妻と娘の眠るウラジオストクを日本にする」という
個人的な弔いではあるまいな?

この時点での月島は、日本繁栄とは極東へ領土を拡大するための建前に過ぎず、極東への領土拡大の目的は『戦友たちが眠る土地を日本にする』ことだと考えていた。鶴見に試されたことに気付いてもなお、満州で鶴見の語った戦友を弔う言葉は本物だと月島は信じていた。
また鶴見に本当の目的があるとしても、満州進出と政権転覆がそのために必要不可欠なら鶴見について行った者たちは救われるはずだし、自分も鶴見がとんでもないことを成し遂げてくれるならそれでいいと考えていた。
だが月島は盗み聞きをしながら、鶴見の妻子がウラジオストクで亡くなっていたことを知り、鶴見が日露戦争前からウラジオストク進出に拘っていたことを思い出し、極東への領土拡大が『戦友たちが眠る土地を日本にする』ための手段ではなかったことに気がついてしまう。そしてもし極東への領土拡大の目的が「妻と娘の眠るウラジオストクを日本にする」という
個人的な弔いにあり、それが鶴見の本当の目的のすべてだとしたら、とんでもないことを成し遂げてくれると信じて苦痛に耐えてきた自分が報われないと怒りに震えた。
だが鶴見の本当の目的とはこれまで建前だと思われていた日本繁栄にこそあると聞いて月島は安堵した。日本繁栄が本当の目的ならこれまでの自分の犠牲に見合う十分なスケールがあるからだ。また、鯉登が鶴見はくだらない人間ではないと信じようとしたように、義が備わった目的でさえある。しかしこの時点での鯉登は、鶴見が日本繁栄のためならそれ以外は切り捨てられ、ついて行った部下たちの命や生活をないがしろにできる人間だとは気付いていなかった。鯉登が考えている部下たちの救いを、北海道の産業発展による生活向上や第七師団の地位向上を、鶴見が二の次にしていることを理解していなかった。だから「日本繁栄のため極東への領土拡大」という手段と、『戦友たちが眠る土地を日本にする』という目的が入れ替わっても無邪気に喜ぶことができた。だがその嬉しさも、月島が有古の胸を銃で撃ち、さらに先程の鶴見の言葉がすべて鶴見劇場だったことに気がついたために儚く打ち砕かれてしまう。鯉登はとうとう五稜郭のあの建物で自分の憧れの終わりと向き合うことになる。