メモ帳用ブログ

色々な雑記。

ゴールデンカムイは登場人物の望みが軒並みストレートに叶っていない。全く叶っていないわけではないが、捻れて叶っている。
主人公の杉元からして、梅ちゃんに目の手術を受けさせるために金塊を手に入れる→梅ちゃんの目の治療費は現在の旦那が出していたがけじめと息子のために砂金を渡す、だ。鶴見も金塊を手に入れて日本繁栄を成し遂げる→金塊があるという詐欺で日本を守る、だし、月島も、鶴見中尉殿の隣は私の席だ→鯉登音之進中将の右腕を全うした、だし、鯉登も、鶴見中尉殿と月島軍曹を最後まで見届ける覚悟でいる→鶴見に別れ話を切り出して月島を解放させた、だし、尾形も自分が欠けた人間であることを証明しようとして自分が欠けていない人間であることを証明してしまった。
そういう流れで考えればアシㇼパが金塊をアイヌのために使おうと考えたが現実の厳しさに心が折れ、しかし完全に諦めたわけではなく、先人が金塊から土地に換えてくれていた分はアイヌのために命懸けで守る、という流れは、確かにラストは最初から決めていたと野田先生がインタビューで語る通りなんだと思う。バトルロイヤルの果てに最後に宝を手に入れた人間が宝を手放すという流れ自体は定番だし。
ただアシㇼパは、網走監獄にいる父親の仇を処刑させるために金塊を手に入れる→網走監獄にいたのは実は父親で、金塊巡るドサクサで目の前で射殺された、って流れをやっているんだから、中盤からできた新しい願いであるアイヌのために何かしたいってのは素直に叶えさせてあげて良かったんじゃないかと思う。
金塊の封印を決めるにしても鶴見の悪意に影響を受けるようなのじゃなくてもっと自発的に決意させてあげられなかったものか。鶴見が自分の妻子の死を互いに民族の命運のかかった政治的な場で持ち出してきたのは卑怯だ。和人に妻子を殺されたアイヌだっていくらでもいるし、そんな話をしてもきりがない。それでもアシㇼパは自分の父親が起こした事故で罪のない人間が死んだと言われたら気にしてしまう優しい少女で、鶴見はそれをわかっていて揺さぶった。 
アシㇼパは本来非合理的な判断まで信仰のせいにしたりしない新しいアイヌの女なのに、急に迷信めいたことを言い出すようになったのも鶴見の精神攻撃のせいだろう。こうしたアシㇼパの精神性の反転も意図された展開だとは思うけど、前半のアシㇼパが好きだっただけに鶴見に汚された気分だ。アシㇼパは信仰や文化を先人の知恵の結晶として大切にするけど、あくまでその裏に隠された合理性を考える聡明な少女だった。熊送りの儀式の前に捕まえた子熊を育てる理由も自分で考えていた。ウェンカムイとなったヒグマを食べない理由を考えて姉畑の死に関わったシャチは美味しくいただいた。狩りを行う前に火起こしなどの儀式を行うのも心の準備をする効果があるんだろうと考えていた。そんな合理的な思考ができるアシㇼパだからこそ、杉元は以前アシㇼパも人を殺して地獄に落ちたくないと言っていたが信心深くないアシㇼパは地獄をどう考えているのか、自分は地獄とは人を殺して元の自分に戻れずに苦しむことだと考えている、だからアシㇼパには人を殺してほしくない、と本音を打ち明けられた。そんなにアシㇼパがクライマックスでは、黄金のカムイは悪いカムイだから封印する、黄金のカムイを先人のアイヌが私たちの生活に必要なカムイに変えた分は守る、と考えるようになったのはどうしても釈然としないと部分が残る。やっぱりせめて鶴見の悪意に影響を受けるようなのじゃなくてもっと自発的に…。まあ落ち込んでいたアシㇼパが半分の価値に対してでも全力で前向きになる心の整理をつけられたのは良かったと思う。なんだかんだと言っても、合理的な判断だけでは心が折れそうな時に非合理的な信仰が心の支えになってくれるという気持ちは自分もわからないわけじゃないんだよ。アシㇼパは鶴見にちゃんと半分以上は勝った。