メモ帳用ブログ

色々な雑記。

ヒガンバナは中国原産の植物だ。しかし「彼岸花」という日本独自の和名が近年中国に逆輸入されている。現代中国ではヒガンバナは「石蒜」と呼ぶのが一般的だ。
千葉大名誉教授の栗田子郎先生のサイトによれば、日本でヒガンバナと断定できる植物が文献に記録されるようになったのは室町時代以降だそうだ。『続群書類従』に収録される詩稿に「曼珠沙華」としてヒガンバナをうたった文章が含まれている。当時は僧侶の間で知られる珍しい花だった。全国に広まりだしたのも室町時代頃とされている。渡来自体がいつ頃だったのかははっきりしていない。縄文時代に渡来したという説も室町時代に渡来したという説もそれ以外の説もある。
だから日月同错で彼岸花から名を取られた彼岸山が西暦525年にあるのは歴史的には正しくない。でも動植物の呼び名が時代や地方に合っていないというのは歴史ものではごくありふれている。そもそもその時代の中国でのヒガンバナの呼び方は判明していない。比較的近い時代では、唐代に書かれた『西陽雑俎』でおそらくヒガンバナ属である植物を「金燈」として記しているそうだ(金燈は山慈姑の別名とされる。日本での山慈姑ユリ科のアマナのことだが、中国ではラン科の植物にも山慈姑と呼ばれるものがある。慈姑=クワイのような球根の植物であること以外は不明な点が多い)。現代中国で一般に使われる「石蒜」の表記が初めて文献から見つかるのは宋代の『図経本草』だという。
日月同错の「彼岸花」という表記からわかるのはこの作品が日本の強い影響を受けているということくらいだ。ただ文化の流れを考えて知ることにも意味はある。

〈研究ノート〉彼岸花にみる生活世界:命名と名称分布から