メモ帳用ブログ

色々な雑記。

生物は増えるために生きている、という言い方がよくされる。確かに生物は自己増殖する性質を持っている。生物を科学的に定義することは難しいが、それでも生物とは、膜で外界から区切られ、代謝を行い、自己複製するという3つの性質を持つものだと考えるのが現在は一般的だ。単なる個体の存続を超えた自己複製、世代交代は古くから人類の注目を集めてきた。現代でも、リチャード・ドーキンス博士の『利己的な遺伝子』など、生物の自己複製の根幹に関わる学説は社会や人々の意識に大きな衝撃を与えた。『利己的な遺伝子』では遺伝子選択説が擁護され、群選択説が否定されている。
ただし生物が何のために存在するのかという問いは、厳密には問いそのものが間違っている。生物は目的論的に存在するのではなく、結果的にある性質を持った有機体が生物とみなされているからだ。結果論から目的論を導き出すことはできない。導き出そうとすれば因果関係の逆転した嘘になってしまう。地球は生物や人類を育むために現在のような環境になっているのではなく、現在のような地球環境だから現在のような生物や人類が結果的に誕生したのだ。
生命は自己増殖するために生きているというよりは、偶然自己増殖する性質を持った物質が生命と呼ばれると考えるのが適当だ。その物質こそが遺伝子だ。遺伝子選択説を用いると、人類を含むサル類の繁殖戦略の違いなどもある程度説明できる。
例えば、ニホンザルはメスが生まれた集団に留まりオスが集団を移っていく母系制の社会を持つ。通常、オスの集団での順位は所属期間の長さと実力によって決定される。ハナレザルがいきなり集団を制圧して第一位のオスとなる場合もあるが稀だ。ほとんどの場合で新入りのオスは最下位からスタートする。所属期間が長く集団での順位が高いオスは、餌などの資源を巡って有利な立場になる。また、他のオスの交尾を妨害することなどもできる。だがメスの方には集団に長くいるオスとの交尾を避ける性質がある。この性質により、父子関係が明確でない乱婚制かつメスが生まれた集団に留まる母系制のニホンザルにおいて近親交配のリスクが軽減できると考えられている。遺伝子調査でも順位の高いオスほど新しく生まれる子の父親になりにくいという事実が確かめられた。オスは繁殖のために数年ごとに順位を捨てて集団を移り、最下位からやり直す。
一方、チンパンジーではオスの順位の高さが繁殖の成功に直結する。チンパンジーはオスが生まれた集団に留まりメスが集団を移る父系制の社会を持つ。乱婚制でも母子関係は明確であり、そこさえ避ければ近親交配は生じにくい。
あくまで印象だが、ヒトの社会はニホンザルよりはやはりチンパンジーに近いように思う。
たとえ話だが、「緑は赤よりは青に近い」というのは「緑は青だ」という意味ではない。