メモ帳用ブログ

色々な雑記。

自分の群れがまさに滅んでいく様を目の当たりにしていたウイルク少年は、群れのために最大限の合理性を発揮するオオカミのあり方に憧れた。オオカミたちは群れのためにならない孤立したオオカミを殺した。群れを守るためにはとことん容赦を捨てなくてはならないとウイルク少年は考えたのだろう。しかしウイルクのそうしたあり方は彼をかえって人間の群れから孤立させた。
彼に心を寄せる女性が多いのは彼の理解出来なさが異性の謎めいた魅力として写るだからだ。能力があり口が上手いため当初は同志からの尊敬を集めるが、結局は人間性の問題で関係が破綻する。唯一心から慕ってくれたユルバルスも自ら突き放し、かといって殺すこともできなかった。
第30巻で加筆されたソフィアの回想でウイルクは数々の示唆に富む発言をしている。ロシアの革命家は子どもだけは巻き込まないという言葉はフィーナとオリガの殺害が故意でないことを、殺人への罪悪感による自殺は尾形を、愛のない革命家はただの殺人者という言葉は鶴見を、そして仲間との別れで独りぼっちになるという言葉は後の自分自身を暗示している。独りぼっちになったウイルクは自分の憧れたオオカミのやり方でユルバルスに殺害される。彼の生と死は彼の群れにわずかでも役立ったのだろうか?