メモ帳用ブログ

色々な雑記。

ゴールデンカムイの主要キャラでミステリアスなキャラ付けがなされているのは尾形、ウイルク、鶴見中尉の3人ということでいいはず(ニワカ読者感)。
尾形は行動こそ突飛だけど、実のところ思考プロセスは人間くさい。愛しているから同じだけ愛し返してほしい。よく知りもしないのに見下さないでほしい。かといって理想像を押し付けないで醜いところも含めた自分を愛してほしい。よそ見をされたくない。親のような存在からの愛と、弟のような存在からの愛、自分で殺しておきながらその両方を求めている。
ウイルクは行動は合理的なんだけど、思考プロセスに人間くささがまるでなかった。そこに畏れと信頼の感情を抱く者もいた。ウイルクを変えたものはリラッテ(アシㇼパの母親)なのか、アシㇼパなのか、リラッテの死なのか、すべてなのか。ウイルクは私情で大義を歪めてしまった男だ。
ウイルクはロシア時代の活動も踏まえれば類稀なテロリストと言っていい。それでもアイヌ民族の命運を救う革命家にはなれなかった。この辺、白色テロリストとして名を馳せたけど明治維新の流れは変えられなかった土方歳三と作中で同格に位置づけられていると考えていいのかな。
鶴見中尉は行動も思考もまあまとも。汚い手を使いまくってるのも合目的性を考えればまとも。メタ的にも作中的にも外連味のある言動で装飾しているけどまとも。
私情と大義の向かう先が一致しているので最後の最後まではどちらがどちらを歪めるということもなかった。この点はウイルクと対照的だ。どちらが本心でどちらが建前なのかは好きに受け取っていい部分だろう。最後の行動も、本心がどこにあるのかはぼかされている。ストレートに私情はかけがえのないものだったが大義が勝ったと捉えてもいいし、私情のほうが勝っていたからこそ鶴見劇場を全うするのが自らの責務だと考えて最後まで演じきった可能性もある。
まともな人ではあるけど、鶴見中尉の正義と主人公グループの行動方針がかち合った以上、殺し合いで決着をつける流れになるのは仕方がない。時代的にも作品的にもだ。殺し合って生き延びた者が未来を掴む。主人公サイドは読者が応援しやすいよう作劇上比較的やむを得ない殺人のみに留められているけど、主人公たちが善で鶴見中尉たちが悪という書き方ではなかった。アシㇼパも形式的には殺人者にはならなかったけど、実質的には殺人の罪を背負って受け入れたという描写だった。
鶴見中尉は能力は高かったが野望が大きすぎて運に恵まれなかった。
ただ、ウイルクと同様、改革を起こすためとはいえ多くの人間の運命を操ろうとしすぎた感はある。アシㇼパが父親を尊敬しつつも父親とは異なる道を選んだように、鶴見中尉も終盤で鯉登少尉に盲従からの卒業を告げられる。それまでの鯉登は自分の人生が鶴見中尉の陰謀で摘み取られていたことを知っても、喜びの言葉を口にできた若者だった。ぶっ飛んでいるが、鶴見の人心掌握術にしろ、鯉登の忠誠にしろ、この言葉が納得できる描写の積み重ねがあった。ただ、ここで鯉登は偽りを述べたつもりはないだろうが、状況が状況だけにリアクションが不自然なほど大げさになってしまっている。鯉登は自らの命乞いのために場を取り繕うキャラではないけど、尋常でない様子の月島にいたたまれなくなるあまりに場の雰囲気をぶち壊してしまうことならあり得る。あの時の鯉登少尉の怯えには、鶴見中尉に対する怖ろしさだけでなく、月島軍曹のあまりの憔悴に対する狼狽も含まれていたはずだ。鯉登がどの程度月島の過去を知っていたかは定かではないが、突然あの男がどうこう言われても全く理解できなかったのは間違いない。盗み聞きした白石と同レベルの理解しかできなくても不思議はない。普段通りの月島軍曹ならこんな支離滅裂な話し方にはならないだろう。月島は追い詰められ、汚れ仕事で傷ついている。そんな月島が、鶴見中尉に従わないのなら鯉登少尉を始末する汚れ仕事は自分がやると語る時、鯉登が感じたものとは、はたして自らの死に対する恐怖だっただろうか。恐怖を感じたのなら、それはむしろ月島の精神の崩壊に、ではないだろうか。
この後、谷垣たちを殺害しようと銃を構えて自分にも銃口を向ける月島を、鯉登は丸腰のままで阻止している。そして逃げたい者は放っておけばいい、自分は最後まで鶴見中尉と月島軍曹を見届ける覚悟だ、と誓った。もう遅いと捨て鉢になる月島をまだ遅くないと説得した。谷垣とインカラマッの娘が無事に生まれ、月島はあの時は誤魔化したのか本心だったのかと改めて問いかける。鯉登は「どちらとも好きにとれ」と言いつつも、鶴見に対する忠誠は明言した。誤魔化しを否定しなかったのは、あの時は月島の痛みに正面から向き合うことを避けてしまった自覚があるからだろう。この事件で月島は現在のいご草ちゃんのために過去に改めて一線を引いたようで、千里眼で見えたものを伝えようとするインカラマッを、いご草ちゃんに関わる情報と知りつつもあえて制止している。
鯉登少尉はまっすぐな気性だが、自分が鶴見中尉の下で汚れ仕事や殺人を担う価値は納得しきっていた。それでもやり口の裏の裏を知っていき、士官として自らの部下たちに対する責任を背負うようになるにつれ、自分自身の道を模索せざるを得なくなる。
突然の別作品だけど、鯉登少尉と月島軍曹はちょっとウテナとアンシーに似ている。「…本物の星は、見たくなかったんです。今夜の薔薇は、届きましたか?」とか言いそうな月島軍曹。監督のダークサイドだからバッサリ否定された暁生と、作者から異なる大義を持つ他人として尊重されている感のある鶴見中尉はだいぶ違うんだけど。