メモ帳用ブログ

色々な雑記。

もし樺太から帰還する駆逐艦の中で、鯉登音之進少尉が鯉登平二少将に自分の誘拐事件の真相や第七師団長花沢幸次郎中将自刃の真相を暴露していたら、鯉登平二少将が鶴見篤四郎中尉を見逃せたはずがない。
音之進は鶴見を慕っているから自分の誘拐については不問にしたし、第七師団の鶴見が自分の師団の長を殺したという大罪にも直属の部下として目を瞑れた。だが鯉登平二少将はそうはいかない。
鶴見と部下たちは誘拐工作が失敗していれば音之進を躊躇なく殺していただろう。また、幸次郎は平二の親友だった。さらに音之進は知らないだろうが、平二は幸次郎が自刃の時に送った手紙とされるものを受け取っており、幸次郎の自刃が偽装だと判明すればその手紙も偽物であることは明白になる。平二に鶴見を生かす選択肢は存在しない。音之進もその点は理解していたからまず月島に一対一で事件の真相を確認しようとし、父親に告げ口するのはなるべく避けようとした。
もし音之進が駆逐艦の中で平二に鶴見の悪行を暴露していたら、鶴見と月島は「任務中の名誉ある死」を遂げることとなっただろう。その後はどうなるか。クーデター計画を止める場合と、平二が実質的な指導者となって続ける場合の2通りが考えられる。
クーデター計画を止める場合でも尾形や菊田を通じて平二が鶴見に協力していた事実は中央に報告される。平二や音之進はスパイが誰だか知らないが、スパイが潜り込んでいる事自体は容易に推測できる。中央への服従を改めて示すためにアイヌの金塊捜索への協力は引き続いて行うことになる。そうすれば網走監獄襲撃事件へ平二が協力したことも、自分と息子はあくまで中央からの命である金塊捜索のために手がかりを得ることに協力したつもりだった、鶴見がクーデターを計画してことまでは知らなかった、と言い訳がたつ。
平二がもし、「無能な中央に代わって、金塊を資金源に北海道で軍需産業を育成、政変をおこし軍事政権を樹立、第七師団の地位向上、その先で我々の戦友が眠る満州を実質的な日本の領土に」という鶴見の掲げた大義に心から感銘を受けていた場合、鶴見に騙されていたことを知り鶴見を殺したとしても、クーデター計画そのものは続けるかもしれない。この場合、鶴見の計画を薄々でも知って協力してた第七師団の団員の中で、一番の高官である淀川輝前中佐にまず働きかける必要がある。音之進を通じて自分が実質的な指揮官になるとしても、経験豊富な陸軍の小隊長というものはどうしても不可欠だからだ。大義とクーデターに賛同する有能な小隊長を見繕ってもらう必要がある。ここまで大きな動きをすれば中央は平二を含めた旧鶴見勢を早急に抑えようとするだろう。それを掻い潜りながらアイヌの金塊を一刻も早く確保しなくてはならない。
どの道、金塊捜索が喫緊の課題になる。