メモ帳用ブログ

色々な雑記。

フィクションの表現というか、リアリティラインというか、元ネタに即している度は描きたい目的に合わせて調整される。

ゴールデンカムイはエンタメ漫画だから史実を元ネタにしつつもリアリティラインはやや低めで統一されている。

野田先生はキャラクターブックの質問箱で、網走監獄の房扉を一斉に開ける装置はあったのかという質問に、「でっかい嘘です。(中略)調べた上でガッツリ嘘を付くのが良い漫画作品だと思っています」と答えている。確かに一斉に扉が開かれて第七師団と囚人たちの戦闘が始まった場面はとても盛り上がった。エンタメとして大正解の表現だ。

目的に合わせた表現といえば、鯉登平之丞が戦死した時に21歳の少尉だったのは時代考証的に無理があるけど、これも野田先生がわかっていてあえて付いた漫画的な嘘だと思う。鯉登音之進は初登場時に21歳の少尉だった。その時の音之進はすぐに散りそうな危ない鉄砲玉じみた言動ばかり繰り返し、戦争に行ったこともないのに人殺しもいとわず、「早くまた戦争が起こらないものだろうか」と口走りさえしていた。そんな音之進には実は当時の音之進と同じく21歳の少尉で無残に戦死した平之丞という兄がおり、子どものころは父親のためにいなくなった兄の穴を埋たいと思いつつもそれが果たせずに落ちこぼれの自分にコンプレックスを抱いていた、という事実が明かされる。ただの危険な若者にしか見えなかった音之進の言動の背景にある複雑な感情が、平之丞の設定により端的に暗示される。また第124話で根室にて「早くまた戦争が起こらないものだろうか」と月島に言った際の音之進は船酔いで苦しんでいた(この場面で鯉登と月島のコマとエトピリカのコマが連続するのも人斬り用一郎のエピソードが2人のifルートのようなものであることを考えると重要な示唆)。音之進は船に長時間乗っていると兄の惨たらしい死に様を考えてひどく船酔いしてしまい、そのために海軍将校になれなかったことも過去編で明かされる。この鮮やかな見せ方のためには多少の漫画的な嘘は好判断と言うしかない。もとから階級と年齢の対応はかなり緩い漫画でもあったし。