メモ帳用ブログ

色々な雑記。

ゴールデンカムイは狩猟ものを描こうってところからスタートした作品だそうだし、特に前半は狩猟要素が色濃い。杉元とアシㇼパが鹿狩りをした話からわかるように、自分の命は他者の命の犠牲の上に成り立つものであることを理解して、それを背負って前向きに生きていこうってのが杉元たちの基本姿勢だ。
マタギである谷垣も概ね同じ姿勢。日露戦争中は犠牲にした命に敬意を払う儀式を行っていなかったことを思い出し、通常はクマを仕留めた時に祈る言葉である「コレヨリノチノ ヨニウマレテ ヨイオトキケ」と二瓶の遺体に語りかけることで日露戦争に一区切り付けた。樺太編終了後は自分は兵士でなくマタギだといよいよ自覚し、妻子とともに鶴見勢力を抜ける。
杉元が日露戦争にケリをつけるために金塊争奪戦という私闘で人を殺しまくるのは色々屈折していると思わなくもないんだけど、基本的にはこういう姿勢。ゴールデンカムイは良い意味で粗野な作品だし、杉元も粗野なところに魅力のある男だ。実際、変に真面目なノリになった後半より前半のほうが面白かったし、杉元の魅力もよく出ていた。殺し合いが多人数対多人数になってどうしても荒っぽくなると、狩猟の覚悟で殺人の罪悪感を乗り越えるというも殺人に開き直っているように見えかねないのもギリギリな部分だ。でも最終回の杉元のセリフは雑誌掲載時から前向きでいいと思ったし、単行本でセリフが追加されて犠牲を背負う姿勢が強調されたことでなおさらいいセリフになったと感じた。
最後に生き残った者には他者の命を背負わざるをいけないことに前向きになれた者が多い。他方、ゴールデンカムイには既に致命的な痛みを背負っているが故にそこから目を背けるために殺し合いの苦痛に夢中になってる人間もいる。とても生きていけないが、ただ死ぬのは恐ろしいし自分の無意味さを証明してしまうようで虚しいから、命を捨てるいい口実を見つけるまでの時間稼ぎをしている。そちらの人間は多くが亡くなった。だが、背負う覚悟があっても亡くなってしまった登場人物も少なくはないし、後者でも月島のように生き延びた人間もいる。ゴールデンはそういう作品だ。生き残りやすくなる傾向や生き残るためにできる準備はあっても、結果は勝負をするまでわからない。