メモ帳用ブログ

色々な雑記。

アシㇼパの殺人の覚悟の流れはだいたいこんな感じのはずだ。野田先生のインタビューも参考にした。

アシㇼパは杉元に誘われるまま人殺しの覚悟もなく金塊争奪戦に参加し、樺太編のラストでは杉元にこの殺し合いの場から退いてほしいと言われた。しかし自分の意志で留まることを決めた。とはいえ殺人に中々積極的にはなれなかった。そうしているうちに、長期的に見れば利害の対立する敵だが今現在は紛れもなく心を通わせていた同盟相手が次々に戦死していく。アシㇼパは嘆き悲しむ。だがそれは金塊争奪戦を勝ち抜くという点から見れば、アシㇼパが何もしていないにも拘らず都合のいい事態が次々と舞い込んでいる状況ともいえた。だからこそ、アシㇼパは、戦場に突然飛び込んできて杉元を殺そうとした尾形は自分の決断で殺さなくてはならなかった。殺し合いの場で人殺しになるというアシㇼパの覚悟を目の当たりにした杉元は、これまで自分がアシㇼパを庇護すべき相手と見くびっていたことに気付き、自分の思い上がりを反省してアシㇼパを心の底から相棒と認めた。アシㇼパは杉元を守るために金塊と土地の権利書を巡る争いから下ろそうとした。だが杉元が本物の相棒としてついて来てくれたことで、アシㇼパは命がけで権利書を鶴見から取り戻すことができた。



野田先生のインタビューを読む限りだと、アシㇼパが尾形を射ったのは愛する杉元を守るためだ。アシㇼパが杉元に恋愛感情を持ったのも最後の展開のために計算して入れていたそうだ。アシㇼパのセリフを借りれば「いちばん大切なひとまで失いたくない」ということだ。これは大切な同盟相手を次々と失ったからこその覚悟だ。
ただ、アイヌの権利書や金塊を手に入れるための仲間のためには人殺しにはなれなかったが、愛する杉元のためには人殺しになれた、アイヌや仲間を守ることよりも杉元ひとりを守ることのほうが大切、というふうに見えかねないのが少々辛いところだ。杉元への恋心はあくまで殺人への最後の一押しのはずだが、アイヌや仲間と杉元を天秤にかけてしまったようにも受け取れてしまいかねない。アシㇼパの恋心は金塊争奪戦の中で生まれたものではあるが、戦友としての仲間意識とはやはり異質なものではあるからだ。そして天秤にかけたように受け取ると、戦いの中で流されるままだったアシㇼパがとうとう覚悟を固めて殺人をしたというよりは、流されてきたアシㇼパがまた流されるままに殺人を犯したように読めてしまう。さらに金塊争奪戦でこれ以上の犠牲を出さずに勝ち抜くために人を殺したのではなく、愛する人を殺そうとする人間が襲ってきたから殺したという全く別の流れが突然押し寄せてきてそれに押し流されたように見える。