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金塊が遠因になって妻子が亡くなった鶴見が金塊を封印したいのだったら気持ちはわかる。鶴見の妻子は完全に巻き込まれただけの被害者だ。だが鶴見はあくまでアシㇼパに金塊を諦めさせ、自分が国家繁栄のために使うつもりで妻子の死の話をした。アシㇼパの父親であるウイルクが金塊を探して日本に渡ったことが現状を招いたのだと責めたのもそのためだ。日本繁栄のためのスパイ活動中、自分を追ってきた秘密警察との銃撃戦に巻き込まれて妻子が死亡した。それでもウイルクや金塊さえ関わってこなければ妻子は死なずに済んだはずだった。だからこそ金塊を使って日本繁栄を果たさなければならない。逆に金塊を闇に葬るのが鶴見の本当の目的だった場合、死を招く金塊の封印のためにわざわざ大勢の部下を騙して利用して死なせていることになるので完全な人格破綻者になってしまう。
アシㇼパは優しい少女なので、策略とわかっていても鶴見の言葉を振り払いきれない。アシㇼパは単に金塊が呪われていると思い込んだからというよりは、その呪いに引き寄せられ解き放ってしまったのが自分の父親だから封印したい。クライマックスで鶴見に「愛するものは　ゴールデンカムイにみんな殺される　全部お前の責任だぞ　ウイルク!!」と言われる以前からアシㇼパはずっとそのことを意識していた。この「愛するもの」とはアシㇼパの愛するものであり、鶴見の愛するものでもある。
ただアシㇼパは、自分がアイヌのために必死で確保しようとしている土地の権利書も金塊と同じくウイルクが再発見したものであることに気付いていない。土地の権利書はそもそも金塊によって購入されたものでもある。また、アシㇼパの愛したものの多くは決して金塊に惑わされて殺し合わされてしまったのではなく、自分の意志と覚悟により殺し合う道を選択した。命がけの道を自ら進める幸福をアシㇼパは理解しきれていない。おそらくアシㇼパにとって殺し合いとはやむを得ない手段でしかなく、目的が果たせなければ過程さえもが無価値になってしまう性質のものなのだ。だからこそアシㇼパはこれまでの犠牲に後ろ髪を引かれずに金塊の封印を決断できたともいえるのだが。金塊争奪戦で散った者たちの進んだ道が決して無駄なものではなかったことは杉元がよく理解している。
自分も人殺しになったのに、東京では人殺しによる変化とは全くの無関係な人間みたいな口ぶりで、「干し柿食べて何か変わった気がするか？」と杉元に聞いてしまうアシㇼパはやはり杉元たちのような戦闘狂とは一線を画したままなんだろう。でもアシㇼパはそれでいいと思う。