メモ帳用ブログ

色々な雑記。

鈴芽は
愛媛の戦いで草太から戦友と認められ、神戸の戦いでまさに命懸けの戦いをともに切り抜けた。出会って数日ながら、草太のある一面を今までで最も理解した人間になった。それは間違いない。
だが鈴芽は、神戸で草太から自分は大学生で教師を目指していると聞かされ、驚くことになる。草太と一心同体になっていたつもりの鈴芽は草太に自分の知らない面があることを想像できなかった。しかも東京で出会った草太の「知り合い」は見るからに清廉な草太とは違い、一見不良青年そのものだった。
この時点の鈴芽は草太に母親の影を重ねていた節もあるため、母親が知らないうちにチャラ男と付き合っていたのに近い抵抗を感じた部分もあるだろう。芹澤から「友達の心配をしちゃ悪いのかよ!?」と真剣に言ってもらえてもむしろ戸惑うばかりだった。
東北へ向かう道中、鈴芽は自分を連れ戻したがっている環はもちろん、7時間も車を運転して連れて行ってくれている芹澤に対しても壁を作っていた。それは自分の知らない草太というものを受け入れ難く、自分が世界で一番草太のことを心配しているに決まっていると思い込んでいたからだ。芹澤の方は突然現れた鈴芽のことも受け入れて、叔母ともども失礼な態度を取ったことすら受け流してくれていたのに。だが鈴芽は常世に赴き、他の誰でもなく、ひとりの人間である草太に心で触れた。草太を本当に理解した。
そして草太に対する思い込みを解いた鈴芽は、帰りの道中ですっかり芹澤とも打ち解けた。
一方の芹澤は、教師を目指す大学生としての草太のことは誰よりも理解していた。自分にとって大学で一番仲の良い友達は草太であり、草太にとっては自分がそうであることに疑いはない。だが草太に自分の知らない面があることには出会って間もないうちから気付いていた。立ち入ってほしくなさそうだから踏み込まなかった。自分たちはお互いにもう大人で、お互いに男で、それぞれ自分の人生を持っていることを理解できないガキになんてなれない。だから草太が寂しさを抱えていることを知っていたのに、ずっと何もしてやれなかった。
そして草太は教員採用二次試験の会場に現れなかった。家を訪ねたら知らない少女がいた。一度ははぐらかされて見失ったものの、再び会った少女は切羽詰まった様子だった。草太の身に何かがあって、その少女が草太のところに向かおうとしているというのなら、自分が連れて行ってやる。草太に自分の知らない面があることなんて最初からわかっていた。
それでも、ずっと自分には何もしてやれないと思っていたその部分に、自分が少しでも力になれるのなら。