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子供部屋の葬送

タッチの浅倉南をどう思うかっていうのは、なまじ優等生で可愛がられてるから子供っぽさが抜けない中高生で、作中でもそう位置づけられているキャラについて、どう思うかってところに尽きると思う。子供から大人に変わりつつある青春の真っ只中として、南の描写が整理されていったのも含めて。中高生だから大目に見られるか、中高生でもムカつくか。あと異性を意識しはじめるのが子供のうちからなのか、青春に入ってからなのかというテーマに関わる部分の認識。

ひとつの建物を、3人の男女が1人ずつ出入りしていく。タッチの有名な始まりの場面だ。少し変形されてワイド版の第1巻の表紙に採用されてもいる。この建物は、同い年で仲良しな3人の子供のために隣同士の両家が建てた子供部屋だ。

連載開始時、達也・和也・南の3人は思春期に入っていたけど、まだ生まれた直後からの仲良しな3人だった。子供部屋は、達也が南は女だと気付くようになった頃から勉強部屋という名前に変わったけど、まだ3人でいられる場所だった。子供の頃のままの3人の関係が続くのを、まだ達也は望んでいた。何より、3人が子供の頃に南が言った「甲子園につれてって」という夢も、まだ南と和也の間で有効だった。

南は、後に本人が後悔する通りの「無責任なお願い」を、長年和也に託していた。それができたのは、幼なじみという関係で子供の頃から続く家族めいた甘えが、まだ自分と和也の間で有効だと思っていたからだ。その夢を和也が恋人関係になるための先取点にしようとした直後に、交通事故は起きる。もし和也が生きていれば、甲子園ゆきのポイントくらいでは南の達也への思いが変わらないことに、和也も南も、嫌でも向き合わなくてはならなかったはずだ。そうなればもしかしたら南から、子供の頃からの家族めいた甘えの終わりを、子供の頃から続く夢の終わりを、和也に告げていたのかもしれない。それこそが達也の先送りしたかった関係の変化でもある。

和也が亡くなってからも達也と南が維持してきたものが、甲子園ゆきの夢ともう1つある。勉強部屋だ。事故からしばらくして、勉強部屋に和也の大きな写真を置くことを達也は南に提案した。2人きりで勉強している時に男女の間違いを起こさないためだ。最初は無くても大丈夫と応じた南も、話すうちに達也に同意した。勉強部屋は子供部屋だった頃からの、男女以前の3人の場としてあり続ける。上杉家の母親が勉強部屋の和也の机を片付けることを南に提案した時も、南の動揺で片付けは先送りされた。甲子園ゆきの夢と勉強部屋は、達也と南に和也が遺した和也の一部そのものだ。 この2つの葬送を果たすまで、2人は、あるいは3人は先に進むことができない。

甲子園の出場が決定した後、達也は南に告白した。そして最終回、甲子園優勝後の達也と南は大学に進学するために勉強している。それぞれ自分の家で勉強している。子供部屋だった勉強部屋はまだなくなっていなくて、その前で達也と南が焚き火をするシーンもある(ワイド版の最終巻の表紙にも採用)。だが2人は中に入らず、もう使ってはいない。