メモ帳用ブログ

色々な雑記。

『タッチ』では、むしろ周りは達也を和也以上の天才かもしれないと評価するのに達也はそれを受け入れられず、和也が自分に力を貸してくれているから活躍できると信じることで精神の均衡を保とうとしている、というのが作品としての特徴。達也と同じく達也に和也の影を見てくれる明青野球部のチームメイトだけでなく、達也を和也の身代わりにしようとしている須見工の新田さえもがそういう意味では達也の共犯者ともいえる。

地区大会の優勝を決めた最後のボールも周りは達也の投げた球だと言うけど、達也は和也の投げた球だと思っている。同じく和也を感じてくれたのは他には新田くらいだろう。そのため、達也は和也の遺したバトンを受け取って甲子園ゆきの切符を渡すというテーマは果たせたにも関わらず、自力で勝ったのではないのに甲子園ゆきと浅倉南という成果、つまりエンタメ部分を手に入れてもいいのかという葛藤をより深めてしまう。葛藤を経て折り合いをつけた達也が口に出した言葉が「スタート地点の確認」であり、「上杉達也浅倉南を愛しています。」という2年前には既に態度で伝えていた気持ちの改めての明言でもあるのは面白い。和也を失ってからの達也の年月と野球での練習は成長のためではなくリハビリのために必要だったのだろう。達也の告白に南がコマの外でのキスで返答したことが描かれる。そして、地区大会決勝の前の墓参りでは「和也はここにはいないよ。」と南に言っていた達也は、「ひとつだけ約束してくれ。」「毎年和也の墓参りに付き合うこと。」と言い、ようやく本当の意味で和也の死を受け入れる。次のページでの達也と南の未来を示すような飛行機雲と入道雲が素晴らしい。上杉達也はここから始まるのだと信じられる絵だ。

アニメだと最後の球を和也が投げた描写がないので達也の葛藤もほぼ省略される。この2つはテーマ的に1セットの部分。アニメはまともというか普通の話っぽく改変している部分が多いので、普通に達也の成長ストーリーにする都合と放送枠の都合でまとめて抜いたんだと思う。アニメ独自の続編が原作のタッチとはまったく別物なのは有名な話だけど、アニメのラストから繋がっているのだから別物なのは当然だ。実写映画だと和也が投げるのは最終回の2アウト目の球で、最後の球は達也が投げる。完結から時間が経って制作された映画だけに、名場面として有名になった和也のシーンは必須だけど葛藤させている暇はないので達也に最後の球を投げさせなくてはいけない、という折衷案かな。

個人的には佐々木を試合で活躍させる展開なしでも見どころを感じさせてくれたところも、タッチで好きな部分だ。その場のエンタメを取って無理に活躍させればタッチの世界がただのウソになるし、変にリアルを気取って初心者の佐々木を無碍に扱うと達也の活躍もウソになる。たとえ結果には結びつかなかったとしても、「来年をみてください。」という佐々木の由加への宣言はいい塩梅だった。