「南を甲子園につれてって」はタッチで最も有名で最も誤解されているセリフだ。誤解されているという点まで含めてもそれなりに有名だ。このセリフはMIXのギリギリ最新号の話でも重要なので、引用が多めになってしまうけど少し考えてみたい。
①南が和也に「甲子園につれてって」とお願いしたのは、男女としての好意とは無関係。
まず南がはじめに甲子園に行くことを話した相手は、生まれた時からの幼なじみとしての和也だ(第15話ウワサはただのウワサの巻)。その時幼い南と和也は甲子園と思しい試合をテレビで観戦しており、達也はオモチャで遊びつつそっぽを向いていた。南は背番号1のエースのマネをして果物を振りかぶって投げてみるが、うっかり達也の頭にぶつけてしまう。そして中学生になり和也のユニフォームに背番号1を縫い付ける。運動神経抜群の南は最初は自分自身がエースになって甲子園に行きたかったのかもしれない。
さらに南はずっと甲子園に連れて行ってもらいたい相手は和也、お嫁さんにしてもらいたい相手は達也と分けており、両者を混ぜたりはしていなかった。
②南が達也に「甲子園につれていくこと」と言ったのは達也が甲子園を目指し始めた後。和也の身代わりになってくれるようにお願いしたわけではない。
和也の死の直後、達也がボクシング部のままトレーニングを真面目に始めた時に南は喜んでいた。野球部へ入部するように勧めてもいない。達也を野球部に引き込んだのはキャプテンの黒木だった。
南が最初に「甲子園につれていくこと」と言ったのは達也が今ひとつ頑張りきれないときに応援するためだった。それ以降はこの言葉で励まして欲しいという達也からのリクエストに応えたもの。
達「和也はいつもなにを思って投げていたのかな?」
南「なにいってんの、きまってるでしょ。 マウンドにたったら無心―― 打者をうちとることだけよ。」
達「そんなに割りきれる男かよあいつが……」「人にやたら気をつかって、 やさしくてお人好しで……」
南「ふだんはね。 ――でも、マウンドにたったカッちゃんはちがったわよ。」
達「たしかに…… みていてあいつが打たれる場面は想像できなかったな。」「和也なら新田も抑えられるよ、きっと……」
南「弱音を吐くんじゃない。」「とにかく一生懸命投げて、南を甲子園につれていくこと。」「わかったわね。」 「ん?」
第129話和也と比べてもの巻
達「なんだって?」
南「ん?」「だからァ、一生懸命投げて 南を甲子園につれていくこと。」
達「それだよ!」
南「どれだよ。」
達「それしかねえじゃねえか、和也がマウンドで考えていたことは――」
南「え。」
達「おまえを甲子園につれていくためには、どんなすごい打者でも打たれるわけにはいかなかったんだ。南の夢をかなえることしか頭になかった、あいつは南のためだったらなんでもできる男なんだ。おまえのひと言が和也のボールにわけのわからない力を与えていたんだ。」
南「ほんとかなァ。」
達「そうさ、それしかない!」「どうしてもっと早くおれにそれをいわないんだ!?」
南「あれ、いったことなかったっけ?」
達「ねえよ。」「そういういいかげんな期待のされ方だから、新田にホームランなんか打たれちまうんだよォ。」
第130話南を思ってくれるならの巻