『浦沢直樹 描いて描いて描きまくる』の感想メモ③ なるほどと思った創作姿勢
- 浦沢直樹先生が長崎尚志先生と組んで創作する時の方向性は、工藤かずや先生原作の『パイナップルARMY』を描いている時に固まったんだそうだ。初期の話で、ベトナム戦争の帰還兵が殺人鬼になっている原作を渡されて、まるでホラーもののモンスターのような扱われ方だったので、浦沢先生は帰還兵が殺人鬼になってしまった戦争での過去を描きたいと主張。これ以降人間ドラマを大切にしていくほうに舵を切る。
――影を背負ったスーパーヒーロー、というキャラクターが引っかかっていたのでしょうか?
「うーん、それと、ちょっとした世界情勢みたいなものを背景に入れると、漫画も骨太に見えるという感じが。『漫画ナントカ入門』だとか、ああいうものがどうもねえ……。漫画をそういうふうに利用した挙句に世間には『漫画もここまできた』とか言われてる感じが。貶めているというか。」
――そういう風潮自体がいやだったんですね。漫画がバカにされている感じがしたと。
「ねえ。『ここまできた』じゃない、むしろ退化じゃないかと思っていましたね」
(引用者注:「」の発言者は浦沢直樹先生。――の発言者はインタビュアー)
- 「一番いいのは、今」は浦沢直樹先生の人生観。「穏やかな死」(『MASTERキートン』完全版の第3集 第6話)の人間ドラマには、浦沢直樹先生の意見が反映されたのかもしれない。逆に、勝鹿北星先生の脚本かそれを手直しした長崎尚志先生の脚本から浦沢先生が影響を受けた可能性も一応ある。
――では逆に、一番楽しかった時期、幸せだった時期とは?
「一番いいのは、今」
――それは、制作のペースが安定して余裕があるからということでしょうか?
「うーん、というよりも、そうでなきゃいかんと思うの。今が一番いいと思わなきゃ、かわいそうじゃん。無理やりでいいから、そう思わないと。やっぱりそれは癖にしたほうがいいよ」
――最後はそう思いながら死にたいですよね。
「そうそうそう。だって、運よくここまで生きてこられたというだけでいいんだもん」