メモ帳用ブログ

色々な雑記。

『秘曲 笑傲江湖』のキャラ

『秘曲 笑傲江湖』は日本語訳しか読んでなくて面白かったけど、登場人物のキャラのぶっ飛び方が凄い。カオスな楽しさが善悪の境界を扱うテーマに活かされてるところは流石の巨匠なんだろう。いい意味でショー的。バトル、お色気、モテモテ、チートで、最近の言葉でいうとチーレム的だし、それが娯楽。日本のオタクである自分からするとワンピースに近いものを感じるところも多くて、中国でワンピースが人気だというのも感覚的に納得できる。ワンピースは西部劇や時代劇の影響が強い作品で、そうなると武侠とも親和性が高いのは当然だ。
『秘曲 笑傲江湖』は正派の弟子として育った主人公が魔教と戦いつつも色々なことを知っていくストーリー。こういうテーマだと実は魔教は被害者って方向になりそうだけど、魔教は魔教で構成員がみんな平然と人を殺しまくるヤバい奴ばっかりだったりする。ただし正派に巣食う偽善者はそれを上回る程に胸糞悪い連中だとちゃんと描写できている。江湖の人間なんて正派を名乗ろうが魔教を名乗ろうがみんなヤクザだからね。ただヤクザ賛美が強くて庶民をモブとしてぞんざい扱う感じは古い武侠小説っていう文化の違うエンタメを楽しむためにスルーする必要があるところかな。長編だけにテーマの描写は丁寧だし、丁寧な分展開が遅い代わりにシーンの破壊力が凄くていちいち笑える。登場時は下劣なチンピラだった男が最終的に主人公の悪友ポジションに収まることにも違和感がない。
主人公の令狐冲は好漢として有名らしく、中国でも大人気だそうだ。確かに中国人がいかにも好きそうなキャラだ。おちゃらけて飄々としている感じ。パワーよりトンチのキャラ。濃いキャラに囲まれる中で緩衝材として働く視点役で、実はホームズよりワトソン系。それを補うためか最初の部分だけ主人公視点でなく、令狐冲は別人視点からヒーロー的に描写される。メインヒロインはわかりやすくチートキャラ。
主体性に乏しいところがあって自分にはあまり印象に残らない主人公だったけど、いい意味でスルースキルが高いところは長所だ。邪教が成り行きで庶民をぶち殺しても平気でスルーして仲良くなる。主人公がヒロインと他人の家に侵入しようとした時に、ヒロインが番犬を瞬殺して、でかしたぞみたいな反応を返すところは流石に文化の違いを感じたかな。尼さん軍団を唆して富豪の家から略奪を働くところとかも。正派から一旦破門された時に長くメソメソを引きずるところはイライラしたけど、ここで変に割り切りがいいとクズっぽくなるから必要なパート。最終的には主人公の働きで概ね丸く収まる。日本のエンタメでいうと冴羽獠やルパン三世みたいに洒脱さが魅力のキャラだろうから、台詞回しで勝負できない翻訳小説だと不利ではあるのかも。